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13.根底にあるもの

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「といっても、私の身の上話というのは、少々難しいですね……とりあえず、ナルセリア公爵家のことから話しましょうか」
「ええ、お願いします」
「ナルセリア公爵家には、一般的な貴族とは異なり、質素な暮らしを心掛けるというものがあります。それは、とても珍しいことだと思います」
「ええ、そうですね……」

 私は、とりあえずナルセリア公爵家について語ることにした。
 私の身の上話において、それは重要なことである。なぜなら、私の根底には常にその教えが潜んでいるからだ。

「もちろん、貴族として最低限のことは心がけます。ですが、必要以上に贅沢な暮らしをする必要はない。先祖代々、そんな教えがあるのです」
「どうして、そのような教えが?」
「ナルセリア公爵家は、元を辿ると貧乏な農民の家系だったそうです。色々とあって成り上ったそうですが、その時の暮らしを忘れることなく、贅沢に溺れることなく、民を労る心を忘れない。そういう心掛けが伝えられたそうです」
「それが、今も続いているのですか?」
「ええ、そうみたいです。不思議なものですよね」

 ナルセリア公爵家の教えというのは、遥か昔の祖先が残したものである。
 それが今も守られているというのは、考えてみれば不思議な話だ。
 その教えを破ろうとは、誰も思わなかった。もしかすると、それはすごいことなのかもしれない。それは、それだけその教えが有益であると考えられているからなのだろうか。

「まあ、とにかく、私もその教えに従って生きてきました。身に着けているものを見てもらえばわかるかもしれませんが、貴族らしい華やかさとは無縁だと思います」
「華やかさ、ですか……」
「ええ……でも、私はそんな生活が別に嫌いではありませんでした。なんというのでしょうか……あまり、物欲とかもありませんし、それが嫌だと思ったことは一度もありませんね」
「そうですか」

 改めて振り返ってみると、私はナルセリア公爵家の教えを特に嫌だと思っていなかった。
 そういう気質も、先祖代々受け継がれてきたものなのだろうか。

「私の根本にあるのは、そんな考えですね……そうやって生きてきました。身の上話というとこんな所でしょうか?」
「……大変参考になりました。ありがとうございます」

 ロウガスト様は、私に対してお礼を言ってきた。
 しかし、これは別にお礼を言われるようなことではない。私はただ、自分の話をしただけである。

「あなたの精神がどのようにして育まれたのか、よくわかりました。ナルセリア公爵家の教えは、いいものだと思いますよ」
「そうですかね? そう言ってもらえるのは、ナルセリア公爵家の一員として嬉しいですね……」

 ナルセリア公爵家の教えを、ロウガスト様は賞賛してくれた。
 それは、私としても嬉しいことだ。そう思うということに、私は自分でも少しだけ驚くのだった。
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