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9.興味がないのは

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「……つまり、ノーティア嬢は王子の婚約者という地位にそれ程興味がないということですか?」
「ええ、実はそうなのです」

 私は、トリッシュ嬢と話していた。
 彼女の剣技は、既に見せてもらった。本当に見事なもので、騎士が賞賛していたのがとても納得できた。
 ただ、彼女自身はかなり謙遜している。自らの剣技を誇示するようなことを、彼女は決して言わないのだ。

「なるほど、それは中々に珍しい考えですね。普通、こういった所に来た令嬢は、家を背負って気負うものだと認識していましたが……」
「そうですね……普通は、そうなのだと思います」
「まあ、もっとも、私も人のことを言える立場ではないのかもしれませんが……」
「……やっぱり、そうなのですね」
「ばれていましたか……」

 私の言葉に対して、トリッシュ嬢は苦笑いを浮かべていた。
 彼女が王子の婚約者という地位に興味がないのは、なんとなく察していたことである。

 彼女は、私に対して敵意のようなものがまったくない。その態度から、彼女が何を考えているかは察することができる。
 それに、彼女がここに来ているという事実もそれを裏付けてくれた。王子の婚約者を目指しているなら、いくらなんでも最初にこの場所に来るということはないはずである。

「正直な話、王子の婚約者になりたいとはあまり思っていません。というよりも、私は誰かと婚約したいと思っていないのです」
「それは、貴族としての役割を好ましく思っていないということですか?」
「……そういう訳でもありません。ただ、私には夢があって、それを叶えるためには誰かの婚約者になるというのは邪魔なことなのです。しかし、その夢というのは決して叶うものではないのです。でも、それでも夢見ることは自由でしょう?」
「それはもちろん……夢ですか」

 トリッシュ嬢は、楽しそうに語っていた。
 凛々しい令嬢という雰囲気だった彼女だが、今はまるで子供のようだ。

「どのような夢なのか、聞かせてもらっても構いませんか?」
「ええ、いいですよ。といっても、数々の状況から既に答えは見つかっているのではありませんか?」
「数々の状況……ああ、そういうことですか?」
「そうです。私は、騎士になりたかったのです」

 トリッシュ嬢は、ゆっくりとそう呟いた。
 彼女が、どうしてあれ程の剣技を覚えたのか、何故王城で最初にここに来たのか、それらを考えると、結論はすぐに出てきた。むしろ、夢という言葉を聞いてすぐにそれが思いつかなかったのが、不思議なくらいだ。

 騎士というものに憧れる気持ちは、私もわからない訳ではない。
 騎士道と呼ばれる独自の流儀を持ち、国を守るために剣を振るう者達。それは、とてもかっこいいと思えるものだ。
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