浮気して婚約破棄したあなたが、私の新しい婚約者にとやかく言う権利があるとお思いですか？

２１．後悔しても（モブside）

　ウォンデン伯爵に呼び出されたラカールは、自分が追い詰められていることを悟っていた。
　次期伯爵である弟のリヴェルスに対して暴行を加えたこと、それがどれだけ大きなことなのか、彼も理解していない訳ではないのである。
　ただあの時は、衝動のままに行動してしまった。それを取り下げることなどはできない。

「ち、父上……」
「ラカール、お前はまたしても間違いを犯したようだな」
「そ、それは……」
「リヴェルスに手を上げた罪は重いものだ。そもそも人に手を上げるというのが問題ではあるが、お前はウォンデン伯爵家に仇をなしたとしか言いようがない」
「ち、違います、父上。僕はそのようなつもりはなく……」

　ラカールにできるのは、必死に弁明することだけだった。
　彼の中には、まだ許してもらえるという期待があった。父親であるウォンデン伯爵は、自分への情を捨てきれない人だと、彼は思っていたのだ。
　ただ、その伯爵はゆっくりと首を横に振る。そして向けられた冷たい視線に、ラカールは息を呑む。

「残念だが、既に弁明して何とかできる段階などではない。お前は一度失敗しているということを忘れたのか？　その失敗の記憶も新しい中で、今回の失態だ。これ以上お前をこのウォンデン伯爵家に置いておくことを許容することはできない」
「ち、父上っ……」

　ウォンデン伯爵家から追い出される。それはラカールにとって、絶望的なことであった。
　嫡子としての立場所か、貴族としての地位まで失う。ラカールはそれをなんとか避けなければならないと、父親に縋ろうとする。

「どうかお許しください。このウォンデン伯爵家から追い出されたら、どうすればいいのですか？」
「そのようなことは、こちらが与り知る所ではない。そもそもの話、お前などよりももっと厳しい立場にあったシャルーナ嬢は、自らの意思で貴族の家を捨てたのだぞ？　彼女と愛し合っていたというなら、その覚悟を少しは見習ったらどうだ？」

　ウォンデン伯爵の言葉に、ラカールは何も言い返すことができなかった。
　取り付く島もないということは、明らかである。それを悟ったらラカールは、絶望に打ちひしがれていたのだ。

「猶予はやるとしよう。準備も必要だ。明日の朝までとしよう」
「そ、そんな……」
「言っておくが、こちらは意見を変えるつもりなどはない。お前の行為は、ウォンデン伯爵家を敵に回すものだったのだ。これに懲りたなら、せめて二度と同じようなことはしないことだな」
「あ、ああ……」

　ラカールは、ゆっくりとその場に膝をついた。
　彼の中には、今すぐに行動することができる程の力は残っていなかったのである。