浮気して婚約破棄したあなたが、私の新しい婚約者にとやかく言う権利があるとお思いですか?

木山楽斗

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20.好みの雰囲気

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「ノスティア嬢、私はあなたに何か無礼をしてしまったのでしょうか?」
「え? いいえ、そのようなことはありませんよ」
「あれ?」

 私の質問に対して、ノスティア嬢はきょとんとしていた。
 その反応からして、私が無礼をしたということはなさそうだ。
 それ自体は安心なのだが、そうなるとわからなくなる。それならどうして、ノスティア嬢は私のことをよく覚えているのだろうか。いや単に、記憶力が良いだけなのかもしれないが。

「えっと、それなら私のことをよく覚えているというのは、何故でしょうか?」
「理由を聞かれると、少しだけ困ってしまいますね。なんとなくとしか、言いようがありません。強いて言うなら、雰囲気が好みだったということかもしれません」
「雰囲気が好み……?」

 ノスティア嬢の言葉に対して、私は首を傾げることになった。その言葉が、とても抽象的なものであったからだ。
 そこで私は、助けを求めるために隣のドラグス様に視線を向けた。すると、彼は苦笑いを浮かべていた。その表情からして、ノスティア嬢の言葉の意味をわかっていない訳ではなさそうだ。

「ノスティア嬢、それはどういう意味ですか?」
「一目惚れ、とでもいうのでしょうか。クレーナ嬢とはお友達になりたいと思っていました。お父様やお母様も、好印象を抱いていたようですよ」
「え?」

 ノスティア嬢の言いたいことは、段々となんとなくではあるがわかってきた。本人としても、本当に感覚的なことなのだろう。
 ただその後に発言に、私は思わず固まった。オルフェバー侯爵夫妻も同じような感情を抱いていたなんて、驚きである。
 私に好意的だったのは、そういったことも関係していたのかもしれない。話していた時は、考えてもいなかったが。

「お兄様がクレーナ嬢を選んだことにも納得しています。これも血ということですかね」
「ど、どうなのでしょうか?」

 どうやら私は、オルフェバー侯爵家の人々に殊更好かれるような雰囲気を醸し出しているようである。
 正直、自分ではまったくわからない。だが、四人ともに好かれているのだから、そういうことなのだろう。

「まあ要するに、私はこれからもクレーナ嬢とは良好な関係を築きたいと思っているのです」
「そ、それはありがたいことではありますね……」

 ノスティア嬢は、笑顔を浮かべてくれていた。
 しかし私は、思わず息を呑んでしまう。なんだか少し、怖いような気もしたからだ。
 だが仲良くしてもらえるなら、こちらとしてはとてもありがたいことである。色々と思う所はあるが、受け入れるとしよう。
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