浮気して婚約破棄したあなたが、私の新しい婚約者にとやかく言う権利があるとお思いですか？

１９．彼の妹

「クレーナ嬢、お久し振りですね」
「お久し振りです」
「おっと、私のことは覚えていませんか？」
「いえ、覚えてはいますよ、ノスティア嬢、ですよね？」

　私は目の前にいるノスティア嬢に対して、自信を持って返答をした。
　それ程印象などがあった訳ではないが、流石に顔と名前くらいは一致している。彼女はオルフェバー侯爵家の長女であり、ドラグス様の妹のノスティア嬢だ。
　そんな私の言葉に、彼女は少々意味深な笑顔を浮かべている。何故そのような表情をするのか、私にはわからない。

「あの、どうかしましたか？」
「いえ、やはり私の印象などは薄かったのかと思いまして」
「え？　いや、そんなことはありませんよ」
「今、少し目が泳いだような気がします」

　ノスティア嬢は、私の動きというものを鋭く指摘してきた。
　そんなことをされると、こちらとしては困ってしまう。考えを見抜かれてしまったら、何も隠し事ができないではないか。

「その、確かに仰る通り、特別印象あったという訳ではありません。ただそれは、別に悪いことなどではありません。こういう時には悪い人の方が印象に残るものですから」
「なるほど、それでは私は及第点だったということですか？」
「いえ、そのように上から目線でものを言うつもりはありませんが……」

　ノスティア嬢は、少しその目を細めて私のことを見てきた。
　なんというか、少しやりにくい。ノスティア嬢とは、こんな人だっただろうか。いやこんな人だったら印象に残っていただろうし、少なくとも公の場などではこうではなかったはずである。

「ノスティア、先程から聞いていたが、一体どうしたんだ？　クレーナ嬢に失礼じゃないか」
「お兄様……もう」

　そんな風に思っていると、私の横にいるドラグス様が言葉を発した。
　兄からの言葉に、ノスティア嬢は少し不満そうにする。その姿を見て、私は少しだけ状況というものを理解することになった。
　もしかして、ノスティア嬢は兄を取られるということに思う所があるのだろうか。その可能性はある。二人は仲が良い兄妹だっただろうし、ノスティア嬢は私に嫉妬しているのかもしれない。

「……すみません、クレーナ嬢。私は少し嫌な感じでしたかね」
「あ、いえ、大丈夫ですよ」
「でも、少し悲しかったんです。私の方はクレーナ嬢のことを、よく覚えていましたから」
「え？」

　ドラグス様の言葉が効いたのか、ノスティア嬢は謝罪してきた。
　ただ、その後に続く言葉に私は少し驚く。彼女が私のことをそんなによく覚えていたなんて、思ってもいなかったことだからだ。

　私は、彼女と挨拶を交わした時に粗相でもしたのだろうか。私はそれが気になり始めていた。もしかしたらそこで何かあって、それでノスティア嬢は不機嫌なのかもしれない。
　そんな覚えは正直まったくないのだが、私が気付いていないだけで何か不快なことをしたという可能性はある。これはしっかりと話を聞いて、場合によっては謝罪しなければならないのかもしれない。