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16.彼の期待
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「私もドラグス様に、少なからず惹かれていたのです。あの舞踏会の時から……」
「……そう思っていただけていましたか」
「……驚かれないんですか?」
「自意識過剰かもしれないため言いませんでしたが、そうではないかと期待していました。舞踏会の時には、分かり合えていると思っていましたから」
私の言葉に、ドラグス様は少し頬を赤らめながら答えてくれた。
どうやら彼でさえも、私が気付かなった私の気持ちというものを見抜いていたらしい。
私はそれ程に、わかりやすい人間だったのだろうか。いや、ネガティブに考えるのはやめよう。
見ようによっては、私のことを理解してくれる人が多いとも考えられる。
家族であるお兄様やコーネリア、それに両親。ドラグス様はそれらと同じくらい、私のことをわかってくれる人なのかもしれない。
「クレーナ嬢はきっと、自分を律することができる方なのですね」
「え?」
「あの時の感情のままに、私は行動しています。しかしあなたはそうではない。個人の感情ではなく、アガート伯爵家の人間としての行動を心掛けている。それはそうできることではありません。難しいことだと思います」
「そんなに立派なものではありませんよ。私はただ、叶わない恋だと、感情に蓋をしていたというだけです」
私はドラグス様に対する自分の思いというものを、見ないようにしていた。
それがどうしてなのかは、自分でもよくわからない。単純に怖かったということだろうか。普通に考えれば、叶わない恋だった訳だし。
「私はそうは思いませんがね」
「え?」
「クレーナ嬢が蓋をしたのは、恋愛感情のままに振る舞うことを恐れていたからでしょう。あなたはそれによって失敗した貴族というものをよく知っている。故に、無意識に感情を律したのだと、私なんかは思ってしまいます」
「それは……」
ドラグス様の言葉に、私は固まっていた。
そこで思い出したのは、私のかつての婚約者の姿である。ラカール様は、己の感情のままに振る舞っていた。私は確かに、それを間近で見ていたといえる。
あれが関係していたということなのだろうか。言われてみれば、その可能性はあるかもしれない。少なくとも、ああはなるまいと思ったことは確かだからだ。
「……良い方向に考え過ぎているのではありませんか?」
「おっと、そうでしょうか?」
「ええ」
「なるほど、つまりこれは惚れた弱みということですか……」
「またそんなことを言って……」
真実というものは、最早わからない。私自身にわからないのだから、あの時自分がどのように考えていたかの結論は、誰にも出せないものである。
しかし、ラカール様のように振る舞ってはならないということは、きちんと胸に刻んでおかなければならないことだといえる。彼のように振る舞ったら、きっと後悔することになるだろう。私は改めて、そのことについて考えるのだった。
「……そう思っていただけていましたか」
「……驚かれないんですか?」
「自意識過剰かもしれないため言いませんでしたが、そうではないかと期待していました。舞踏会の時には、分かり合えていると思っていましたから」
私の言葉に、ドラグス様は少し頬を赤らめながら答えてくれた。
どうやら彼でさえも、私が気付かなった私の気持ちというものを見抜いていたらしい。
私はそれ程に、わかりやすい人間だったのだろうか。いや、ネガティブに考えるのはやめよう。
見ようによっては、私のことを理解してくれる人が多いとも考えられる。
家族であるお兄様やコーネリア、それに両親。ドラグス様はそれらと同じくらい、私のことをわかってくれる人なのかもしれない。
「クレーナ嬢はきっと、自分を律することができる方なのですね」
「え?」
「あの時の感情のままに、私は行動しています。しかしあなたはそうではない。個人の感情ではなく、アガート伯爵家の人間としての行動を心掛けている。それはそうできることではありません。難しいことだと思います」
「そんなに立派なものではありませんよ。私はただ、叶わない恋だと、感情に蓋をしていたというだけです」
私はドラグス様に対する自分の思いというものを、見ないようにしていた。
それがどうしてなのかは、自分でもよくわからない。単純に怖かったということだろうか。普通に考えれば、叶わない恋だった訳だし。
「私はそうは思いませんがね」
「え?」
「クレーナ嬢が蓋をしたのは、恋愛感情のままに振る舞うことを恐れていたからでしょう。あなたはそれによって失敗した貴族というものをよく知っている。故に、無意識に感情を律したのだと、私なんかは思ってしまいます」
「それは……」
ドラグス様の言葉に、私は固まっていた。
そこで思い出したのは、私のかつての婚約者の姿である。ラカール様は、己の感情のままに振る舞っていた。私は確かに、それを間近で見ていたといえる。
あれが関係していたということなのだろうか。言われてみれば、その可能性はあるかもしれない。少なくとも、ああはなるまいと思ったことは確かだからだ。
「……良い方向に考え過ぎているのではありませんか?」
「おっと、そうでしょうか?」
「ええ」
「なるほど、つまりこれは惚れた弱みということですか……」
「またそんなことを言って……」
真実というものは、最早わからない。私自身にわからないのだから、あの時自分がどのように考えていたかの結論は、誰にも出せないものである。
しかし、ラカール様のように振る舞ってはならないということは、きちんと胸に刻んでおかなければならないことだといえる。彼のように振る舞ったら、きっと後悔することになるだろう。私は改めて、そのことについて考えるのだった。
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