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12.婚約の申し出

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「婚約、ですか?」
「ああ、オルフェバー侯爵家からそういった提案があった」

 お父様に呼び出された私は、ひどく驚くことになった。オルフェバー侯爵家からの婚約の申し出を、告げられたからだ。
 婚約破棄されたばかりの自分に、婚約の話が来たということがそもそも驚きではあるが、その相手がオルフェバー侯爵家ということには、動揺を隠せない。
 あの侯爵家には、確か男子はドラグス様しかいなかったはずである。となるとその婚約の申し出は、ドラグス様と私の婚約ということになるのだが。

「先の舞踏会にて、お前はどうやらドラグス侯爵令息と親密になったらしいな?」
「え? お父様にそのことを話した覚えはないのですが……」
「ああ、コーネリアから聞いた」
「……そうでしたか」

 ドラグス様とのことは、誰にも話していない。別に話すようなことではないと、思っていたからだ。
 ただ、コーネリアの口に戸は立てられない。素直な子なので、あの場であったことを包み隠さず家族全員に話しているということだろう。

「そのことがきっかけで、ドラグス侯爵令息はお前との婚約を望んだということだろうな。手紙にもそのような旨が書いてあった」
「やっぱりドラグス様が……」

 ドラグス様から婚約の申し出があったという事実に、私の心は少し躍った。
 しかしすぐに冷静になる。あの時の私に、彼が婚約したくなるような要素などあっただろうか。
 あの後何人かと一緒に踊っていたはずだし、その中には私よりも高位の貴族もいたはずだ。そういった人達ではなく私を選んだ理由とは、何なのだろうか。

「お父様、この婚約には何か裏があるのかもしれません」
「裏?」
「だって、ドラグス様が私を選ぶ理由なんてないですから」
「……というと?」
「侯爵家の令息である彼が、わざわざ伯爵家の令嬢に求婚しているのですよ? そこには何か理由があると考えるべきでしょう」
「はあ……?」

 私の言葉に、お父様は目を丸めていた。
 何を言っているのか、わかっていないという感じだ。
 アガート伯爵家の当主が、そんな風では困ってしまう。もう少し警戒心というものを持った方が、良いのではないだろうか。

「理由など、ただ一つだと思うが……」
「どういうことですか?」
「いや、それを私が言うのは無粋というものだろう。流石にそこまで野暮ではない」
「お父様は何を言っているんですか?」
「……まあいい。とにかくこれは良い話だと、私は思っている。とりあえず、改めてドラグス様と顔を合わせる機会を設けるとしよう。今のお前にはそれが必要だ」

 お父様はよくわからないことを言いながら、ドラグス様との対面を勧めてきた。
 そういうことなら、臨む所だ。ドラグス様の真意というものを、探ってみるとしよう。
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