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5.彼の疑い(モブside)

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「本当に子供がいるのか?」
「はい?」

 ラカールの質問に対して、子爵令嬢であるシャルーナは首を傾げることになった。
 大切な話がある。そう言われて呼び出された彼女にとって、ラカールの質問は予想外のものであったのだ。

「そもそもの話、子供が嘘なんじゃないかと言っているんだ。そう簡単に、できるものでもないだろう」
「……ラカール様には、覚えがあるはずでしょう」
「なんのことだか」

 シャルーナの言葉に、ラカールはゆっくりと首を振った。
 その態度に、シャルーナは息を呑む。自分の夫になると言ったはずの彼が、今更になってこんなことを言い出すことは、彼女にとっては予想外のことだったのだ。

「いや、仮に子供がいたとしても、それが僕の子供であるかどうかもわからない。もしも違ったら問題だぞ? その子はただの子供ではない。ウォンデン伯爵家の血筋として扱われる子だ」
「ラカール様の子供で間違いなどはありません。ご心配であるなら、生まれてから鑑定でもなんでもすれば良いではありませんか」

 シャルーナにとって、ラカールの態度というものは不可解なものだった。
 色々とあった訳ではあるが、それでも彼女は自分とラカールが愛し合っているものだとばかり、思っていたのだ。
 だというのに、ラカールの態度は煮え切らない。婚約者であるクレーナとの婚約を破棄したというのに、まるで今からでも自分との関係を覆すかのようだ。

「なんですか? 今更、私を疑い始めるなんて……」
「……そもそも、婚約者がいる身である僕と関係を持つような女だ。そんな女を信用することなんできないだろう」
「それは……」

 ラカールの発言は、自分のことを棚に上げたものではあった。
 しかし、シャルーナにはその言葉というものはそれなりに効果があった。彼女の中には、それに関する負い目というものは、一応あったからだ。
 だから言葉を詰まらせることになった。それがまずかったことを、シャルーナはすぐに理解する。

「それ見ろ。やっぱり、その子供は僕の子供じゃないんだろう?」
「……」
「最初から、信用することはできないと思っていたんだ。こっちが下手に出たから調子に乗って……どうせ子供なんて、いないんだろうさ」

 ラカールはすぐに、調子に乗り始めた。返答がなかったことをいいことに、シャルーナのことを責め始めたのである。
 その態度に、シャルーナの気持ちというものはどんどんと冷めていった。どうして目の前にいる男に恋をしたのか、彼女にはわからなくなっていたのだ。
 故に彼女は、ゆっくりと口を開くことになった。ラカールとの関係を切り捨てる言葉を、彼女は口にしたのである。
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