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8.煽りに乗って
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「ふはははっ!」
「な、何がおかしい?」
「……これが笑わずにいられるか」
大声を出して笑うシェリダン様に、ロンベルト様は明らかに怯んでいた。
先程までの威勢の良さというものが消えている。予想外の反応に、まだ理解が追いついていないということだろうか。
「随分と大それた真似をする奴だと思っていたが、お前は飛んだ小物だな」
「こ、小物だと?」
「自分が切り捨てた女性に親しい男がいたことに、かなり動揺していたように見える。器の小さい男だ。自分の方は浮気していたというのに」
「ぼ、僕を侮辱するのか?」
「図星だったか。益々滑稽な男だ。お前のような者など、早々いはしないだろうな。珍しいものが見えた。一応、感謝しておくとしよう」
シェリダン様は、少し仰々しく言葉を発していた。
それは恐らく、ロンベルト様を煽るための措置であるだろう。彼はかなり怒っている。それはとてもまずい傾向だ。
こういった口論の際に、冷静さを欠いてはいけない。そんなことをしたら相手の思う壺だからだ。ロンベルト様は、まんまとシェリダン様の策に嵌っているといえる。
「さてと、そろそろ通してもらえるか。俺も暇という訳ではない。お前との無駄話に付き合っている暇はないのだ」
「ふざけるな! 僕を侮辱して、ただで帰れると思っているのか?」
「ならばどうするという?」
「こうするんだ!」
「むっ……」
そこでロンベルト様は、シェリダン様に殴り掛かった。
その拳は、頬に当たってシェリダン様はのけぞった。かなり上手く、拳が当たったように見える。
しかしそれは、なんとも下賤な行為だ。言葉で勝てなかったから手を出した。ロンベルト様は、貴族としていや人間として、凡そ最低といえる。
「思い知ったか! 僕を侮辱するからこうなるんだ!」
「ロンベルト様、見事です!」
そんなロンベルト様に賞賛の言葉に口にするイネリアも、最低の部類であった。
まさかこの二人が、ここまで最低な人達だとは思っていなかった故、私は少し動揺していた。
だが、すぐに状況を思い出す。シェリダン様は、大丈夫だろうか。拳が上手く当たったようだし、かなり心配である。
「ふっ……」
「……うん?」
「いい気になっているようだな。まったく持って、愚かなことだが……しかし、俺にとっては好都合ともいえる」
「な、何?」
シェリダン様は、ゆっくりとその体勢を整えていた。
その姿に、ロンベルト様は驚いている。それに関しては、私も同じだ。シェリダン様からは、まったく持って殴られたことによる影響が生じていないように見える。
やせ我慢ということだろうか。しかしあれだけ派手に殴られて、そんな平然としていられるとは思えないような気がする。
そこまで考えて、私は違和感に気付いた。彼がいくらなんでも、見事に殴られ過ぎていたということに。
「な、何がおかしい?」
「……これが笑わずにいられるか」
大声を出して笑うシェリダン様に、ロンベルト様は明らかに怯んでいた。
先程までの威勢の良さというものが消えている。予想外の反応に、まだ理解が追いついていないということだろうか。
「随分と大それた真似をする奴だと思っていたが、お前は飛んだ小物だな」
「こ、小物だと?」
「自分が切り捨てた女性に親しい男がいたことに、かなり動揺していたように見える。器の小さい男だ。自分の方は浮気していたというのに」
「ぼ、僕を侮辱するのか?」
「図星だったか。益々滑稽な男だ。お前のような者など、早々いはしないだろうな。珍しいものが見えた。一応、感謝しておくとしよう」
シェリダン様は、少し仰々しく言葉を発していた。
それは恐らく、ロンベルト様を煽るための措置であるだろう。彼はかなり怒っている。それはとてもまずい傾向だ。
こういった口論の際に、冷静さを欠いてはいけない。そんなことをしたら相手の思う壺だからだ。ロンベルト様は、まんまとシェリダン様の策に嵌っているといえる。
「さてと、そろそろ通してもらえるか。俺も暇という訳ではない。お前との無駄話に付き合っている暇はないのだ」
「ふざけるな! 僕を侮辱して、ただで帰れると思っているのか?」
「ならばどうするという?」
「こうするんだ!」
「むっ……」
そこでロンベルト様は、シェリダン様に殴り掛かった。
その拳は、頬に当たってシェリダン様はのけぞった。かなり上手く、拳が当たったように見える。
しかしそれは、なんとも下賤な行為だ。言葉で勝てなかったから手を出した。ロンベルト様は、貴族としていや人間として、凡そ最低といえる。
「思い知ったか! 僕を侮辱するからこうなるんだ!」
「ロンベルト様、見事です!」
そんなロンベルト様に賞賛の言葉に口にするイネリアも、最低の部類であった。
まさかこの二人が、ここまで最低な人達だとは思っていなかった故、私は少し動揺していた。
だが、すぐに状況を思い出す。シェリダン様は、大丈夫だろうか。拳が上手く当たったようだし、かなり心配である。
「ふっ……」
「……うん?」
「いい気になっているようだな。まったく持って、愚かなことだが……しかし、俺にとっては好都合ともいえる」
「な、何?」
シェリダン様は、ゆっくりとその体勢を整えていた。
その姿に、ロンベルト様は驚いている。それに関しては、私も同じだ。シェリダン様からは、まったく持って殴られたことによる影響が生じていないように見える。
やせ我慢ということだろうか。しかしあれだけ派手に殴られて、そんな平然としていられるとは思えないような気がする。
そこまで考えて、私は違和感に気付いた。彼がいくらなんでも、見事に殴られ過ぎていたということに。
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