本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?

木山楽斗

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5.聞き耳を持たず

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 程なくして、レヴォード様は私とシェリダン様がいる客室に来てくれた。
 入って来た彼の表情を見て、私はすぐに理解することになった。話が上手くまとまったという訳では、ないということを。
 わかっていたことではあるが、ロンベルト様もイネリアも自分達の考えを曲げるつもりなどはないらしい。

「一応、それなりに固い意志を持っての行動という訳か……」
「……そのようだ。まったく、ロンベルトが何を考えているのか、僕には理解できないよ」
「案外何も考えていないという可能性もある。恋愛感情というものは、合理的であるとも限らないからな」

 気落ちしているレヴォード様に対して、シェリダン様は淡々とした意見を述べていた。
 私への対応と比べると、少々辛辣にも思えるが、その辺りは関係性の違いということだろう。気心の置ける友人であるが故に、慰めの言葉は不要と判断したのかもしれない。

「そのような感情で動くことが許されないのが、僕達貴族である訳だが……いや、そんなことはシェリダンなら言わなくてもわかっていることか」
「ロンベルトの行動も、一から十まで理解できないという訳ではない。とはいえ、愚かなことであることは変わりない。二家の間で取り決められた婚約を捻じ曲げようとしているのだからな。それに関しては、イネリア嬢の方も変わらないと言えるが……」
「……そうですね」

 そこでシェリダン様は、私の方に目を向けてきた。
 その視線には、やはり気遣いが伺える。しかし私も、貴族の一人だ。イネリアの行動が短絡的で愚かなことだということはよく理解している。

「とはいえ、状況は最善とは言えませんが、最悪という訳でもないと思います」
「ほう?」
「ロンベルト様が他の人と関係を持っていた場合は、もっと事態がややこしいものになったでしょう。しかしことはまだ、二家の間で解決できることです。もっとも、私としてはあの二人にラメルトン伯爵家を任せたくはありませんが」

 今回の件は厄介な問題ではあるが、二家の間で起こっているということは幸いなことだった。他家が関係していた場合、もっとややこしいことになりかねなかったと思う。
 これが外部に漏れる前に、解決したい所である。それはそこまで非現実的なことという訳でもない。結局の所、婚約というものは二家の当主が最終的は決めることだからだ。
 お父様やディレイル伯爵が、この横暴を許すとは私は思っていない。きっと厳正な判断を下してくれることだろう。

 ただ、そのように解決するためには、まず目の前にいるシェリダン様と話をつけておく必要があるといえる。
 彼の家であるサンダイン侯爵家にこの件が伝わるまでは、まだ許容できない訳ではない。しかし、そこからさらに広まることは阻止しておきたい所だ。私はそれをシェリダン様にお願いしなければならないのである。
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