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1.婚約者からの紹介
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婚約者であるロンベルト様から大事な話があると言われて、私は彼がいるディレイル伯爵家を訪ねていた。
普段はロンベルト様の方が、私の家であるラメルトン伯爵家を訪ねて来るため、これは珍しいことだといえる。
いやそもそもの話、大事な話などという切り出し方が不穏だった。彼からそのようなことを言われるのは初めてだ。正直な所、不安である。
「それでロンベルト様、話とは一体何なのでしょうか?」
「ああ、実は君に言わなければならないことがあるんだ。紹介しなければならない人もいる」
「紹介しなければならない人、ですか?」
「といっても、君もよく知っている人だけれどね……」
私を見て笑みを浮かべながら、ロンベルト様はゆっくりと手を上げた。
すると、一人の女性がその場に現れた。その顔には見覚えがある。というかそこにいるのは、私の妹であるイネリアだ。
「アレシアお姉様、ご機嫌よう」
「イネリア……どうして、あなたがここに?」
「ふふ、驚いているようですね。まあ、無理もないことですか……」
イネリアは私に対して、下卑た笑みを浮かべていた。
その笑みに私は息を呑む。妹のそのような表情は、あまり見たことがなかったからである。
それにまだ、理解が追いついていない。何故妹が、この場にいるのだろうか。彼女とはつい先日、ラメルトン伯爵家の屋敷で別れたばかりなのだが。
「お姉様、まだわかっていないんですか? ロンベルト様が紹介したい人というのは、私のことですよ?」
「イネリアのこと? あなたのことを紹介するなんて……」
イネリアの言葉に、私はある可能性について考えることになった。
私は、ロンベルト様とイネリアのことを交互に見る。すると二人は、口の端を釣り上げて笑っていた。それはまるで、私を馬鹿にしているかのようだ。
その笑顔で、私の疑念は確信となった。つまりロンベルト様は、私の妹であるイネリアと関係を持っていたということだろうか。
「あはは、今更気付くなんて、お姉様は鈍感ですねぇ……」
「やめないか、イネリア。アレシアが可哀想だろう」
私のことを嘲笑うイネリアを止めようとしたロンベルト様も、また私のことを嘲笑っていた。
その表情に、私は驚く。二人のそのような表情など、初めて見た。私はロンベルト様のことは婚約者として、イネリアのことは妹として信用していたというのに。
裏切られたという事実は、私の心を揺さぶってきた。上手く言葉が口から出て来ず、特に何かを言い返すこともできないでいる。
「まあ、そういうことだ。アレシア、君との婚約については破棄させてもらう」
「は、破棄ですって?」
「僕の妻として相応しいのは、ここにいるイネリアだということだ。君では不適切だということをわかってもらいたい」
ロンベルト様は、私にひどく見下した笑みを向けてきた。
その笑顔に、私は項垂れる。反論する気力すら、私には残されていない。ただ嘲笑う二人に対して、唇を噛みしめることしかできなかった。
普段はロンベルト様の方が、私の家であるラメルトン伯爵家を訪ねて来るため、これは珍しいことだといえる。
いやそもそもの話、大事な話などという切り出し方が不穏だった。彼からそのようなことを言われるのは初めてだ。正直な所、不安である。
「それでロンベルト様、話とは一体何なのでしょうか?」
「ああ、実は君に言わなければならないことがあるんだ。紹介しなければならない人もいる」
「紹介しなければならない人、ですか?」
「といっても、君もよく知っている人だけれどね……」
私を見て笑みを浮かべながら、ロンベルト様はゆっくりと手を上げた。
すると、一人の女性がその場に現れた。その顔には見覚えがある。というかそこにいるのは、私の妹であるイネリアだ。
「アレシアお姉様、ご機嫌よう」
「イネリア……どうして、あなたがここに?」
「ふふ、驚いているようですね。まあ、無理もないことですか……」
イネリアは私に対して、下卑た笑みを浮かべていた。
その笑みに私は息を呑む。妹のそのような表情は、あまり見たことがなかったからである。
それにまだ、理解が追いついていない。何故妹が、この場にいるのだろうか。彼女とはつい先日、ラメルトン伯爵家の屋敷で別れたばかりなのだが。
「お姉様、まだわかっていないんですか? ロンベルト様が紹介したい人というのは、私のことですよ?」
「イネリアのこと? あなたのことを紹介するなんて……」
イネリアの言葉に、私はある可能性について考えることになった。
私は、ロンベルト様とイネリアのことを交互に見る。すると二人は、口の端を釣り上げて笑っていた。それはまるで、私を馬鹿にしているかのようだ。
その笑顔で、私の疑念は確信となった。つまりロンベルト様は、私の妹であるイネリアと関係を持っていたということだろうか。
「あはは、今更気付くなんて、お姉様は鈍感ですねぇ……」
「やめないか、イネリア。アレシアが可哀想だろう」
私のことを嘲笑うイネリアを止めようとしたロンベルト様も、また私のことを嘲笑っていた。
その表情に、私は驚く。二人のそのような表情など、初めて見た。私はロンベルト様のことは婚約者として、イネリアのことは妹として信用していたというのに。
裏切られたという事実は、私の心を揺さぶってきた。上手く言葉が口から出て来ず、特に何かを言い返すこともできないでいる。
「まあ、そういうことだ。アレシア、君との婚約については破棄させてもらう」
「は、破棄ですって?」
「僕の妻として相応しいのは、ここにいるイネリアだということだ。君では不適切だということをわかってもらいたい」
ロンベルト様は、私にひどく見下した笑みを向けてきた。
その笑顔に、私は項垂れる。反論する気力すら、私には残されていない。ただ嘲笑う二人に対して、唇を噛みしめることしかできなかった。
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