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14.残されていたもの

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「結界の制御室には、記録を残す性質があります。万が一何かあった時のために、結界がどのように制御されてきたのか見返すことができるのです」

 ゼルフォン殿下は、ゆっくりとそのように呟いた。
 その言葉に、エムリーナ様は目を丸くしている。それは私も同じだ。

 結界の制御室に、そのような性質があるなんて私達は知らなかったのである。
 それは恐らく、限られた者しか知らないことなのだろう。周囲もざわついている。

 だが、考えてみればそれは当然と言えば当然だ。
 王国の中でも重要な施設なのだから、それくらいのセイフティがあった方がいいに決まっている。

「その記録を調べた所、聖女エムリーナによる奇妙な改ざんが記録されていました。彼女は意図的に結界を不安定にしている。結界が揺らぐ程ではありませんが、それでもその綻びを生じさせたという事実は、重要視せざるを得ません」
「うむ……」

 ゼルフォン殿下の言葉に、国王様はゆっくりと頷いた。
 彼の鋭い視線は、エムリーナ様のことをしっかりと捉えている。その威圧によって、彼女の表情は歪む。

「聖女エムリーナ、お主がやったことは許されざることだ。王都を守る結界を意図的に弱くする正当な理由があるはずもない。しかし念のため聞いておこう。お主は何を意図して、結界を操作したのだ?」
「そ、それは……」
「父上、聖女エムリーナの意図は明確です。彼女は、結界の制御を担当している二人を例の日に強制的に休ませました。そして、アルエリアを誘い結界を崩壊させた。それは明らかに、アルエリアを陥れるための策略です」
「ふむ……」

 国王様に詰められて、エムリーナ様は何も言えなくなっていた。
 彼女は縮こまって小さくなっている。この場で詰められていることが、かなり堪えているらしい。

 それは当然であるだろう。この国のトップに、言い訳できないことで責められている。その状況は、きっと生きた心地がしないはずだ。
 もっとも、それは彼女の自業自得である。私を陥れるためだけに、彼女は色々なものを失うことになってしまったのだ。それはなんとも愚かなことだろう。

「聖女エムリーナ、お主には厳正な処罰を下さなければならないな。覚悟しておくがいい。その時間くらいは、用意しよう」
「……くっ!」

 国王様の言葉を受けて、エムリーナ様は勢い良く立ち上がった。
 彼女が何をしようとしているのか、私はすぐにそれを理解した。
 故に私も立ち上がる。エムリーナ様を止められるのは、私だけだからだ。
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