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12.聖女の癇癪

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「わ、私に責任なんてあるはずがありません。結界を崩壊させたのはあなたです。私はそれをカバーしたという功績さえあります」

 エムリーナ様は、少し慌てながらそのようなことを言ってきた。
 彼女は、自分に責任があるという状況をまだ受け入れられていないようである。
 ただ焦っている所を見ると、完全に状況を理解できていないという訳ではなさそうだ。理解した上で、その結論を拒んでいるといった所だろうか。

「残念ながら、そうであってもエムリーナ様が聖女の地位を退くことは間違いありません。王都を守る要が一瞬とはいえなくなったという事実は、それ程に大きいものなのです」
「……ど、どうしてあなたの失敗を私が被るのです?」
「それはあなたが、私の上司だからとしか言いようがありませんね。上に立つ者とは、得てしてそういうものなのです。それはエムリーナ様の方がわかっているのではありませんか?」
「それは……」

 エムリーナ様は、私の指摘に言い淀んでいた。
 貴族である彼女にとって、私の論は身近なものであるだろう。

 例えば、子供の失敗によって親がその地位を失うなんてことも、貴族にはあり得ることだ。
 本来なら、家長が責任を取るという事象は、私よりもエムリーナ様の方がよくわかっているはずなのである。

「そ、それでは私は……」
「ええ、責任を取ることになると思いますよ」
「なっ……どうして、私があなたの巻き添えにならなければならないんですか!」

 エムリーナ様は、駄々っ子のように地団太を踏んでいた。
 とてもみっともない様だが、彼女はその幼稚な内面を隠そうとしない。それくらい余裕がないということだろうか。

「あなたの失敗はあなたが責任を取ればいいのです! それに私まで巻き込まないでください!」
「すみません。その責任を決めるのは、私ではありませんので」
「あ、あなたが失敗さえしなければ……こんなことにはならなかったというのに!」

 エムリーナ様は、私を責めながらも言葉を詰まらせていた。
 それはきっと、私の失敗を仕込んだのが他ならぬ自分であることを思い出したからだろう。
 なんというか、今の彼女はとても滑稽だ。ただ、それを笑う気にはなれない。私としては、彼女の言動は不快でしかないからだ。

 今の彼女は、自分の計画で私を嵌めたというのに、私を責めている。
 そのねじまった性根を受け流せる程、私は大人ではない。私の心には、確かな怒りがふつふつと湧き上がってきていた。

 こんな身勝手な人を許しておいていいはずはない。
 彼女には何か、厳正な処罰が下されるべきだ。私は改めてそんなことを思うのだった。
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