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4.王子からの称賛

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 私は、ゼルフォン殿下とともに客室に来ていた。
 彼は、私の対面に座っている。若干まだ疑いが残っていたが、本当に変な意味で誘った訳ではないらしい。彼は真剣な顔で、何かを考えている。

「さて、何から話したものか……まずアルエリア。俺は君のことを評価している。はっきりと言って、聖女としての資質は君の方がエムリーナよりも上であるだろう。まあそれは、周知の事実であるだろうが」
「……お褒め頂き光栄です、ゼルフォン殿下。しかし、私が聖女エムリーナ様よりも優れているというのには語弊があります。魔法の才能は私の方が上だとは思っていますが、聖女としては彼女の方が適任です。人の上に立つことに慣れていますからね」

 ゼルフォン殿下の言葉に対して、私は適当な返答をしておいた。
 もっとも、それは一応私の本心ではある。

 平民である私は、人の上に立った経験などない。一方で、エムリーナ様は貴族として高い地位にあった。
 その違いは、大きいだろう。聖女として相応しい器は、きっとエムリーナ様の方だ。

 というか、仮にそうでなかったとしても、私は聖女なんてなりたくない。
 給料はもう充分だし、無駄に責任と仕事が増える聖女の地位は、私にとってまったく必要ないものなのである。

「なるほど、確かにそういった見方をすることはできるのかもしれないな。しかしだ。聖女エムリーナが聖女として相応しいとは言えないと俺は思っている。彼女は少々気性が荒すぎる」
「それはまあ、そうですけれど」

 私は、ゼルフォン殿下の言葉にゆっくりと頷くことしかできなかった。
 エムリーナ様の気性の荒さも、周知の事実だ。人の上に立つ存在として、彼女は少々わがまま過ぎるといえる。それは確かに、問題なのかもしれない。

 ただ、それも私はそこまで関係がないと思っている。
 彼女の気性がどうあれ、私がやることはそこまで変わらないからだ。
 貴族に対しては遜って無礼がないように接する。それはエムリーナ様以外でも同じだ。

 そうやって接しているためか、私はエムリーナ様に特に癇癪を起されたことはない。
 彼女からは見下されたような視線は向けられているものの、これといって今まで諍いがあった訳でもないので、特に気になっていなかったのだ。

 とはいえ、穏やかな人が上司ならその方がいいのは当たり前のことではある。
 そこが改善されるというなら願ってもないことだ。

 しかし問題は、ゼルフォン殿下の先程の口振りである。
 もしも私にお鉢が回ってくるというなら、それは勘弁願いたい。聖女の地位など、私には本当に必要ないものなのだから。
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