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15.人の力で

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 イルリース王国は、大らかな国である。
 ここで暮らしていく内に、私はそのような印象を抱くようになっていた。
 その穏やかな国の気質のお陰もあってか、私という隣国の罪人も受け入れられているということなのだろう。

 そう考えると、アルヴァル王国の人々は随分と刺々しかったように思えてくる。
 アルヴァリース様への不信も広がっていたし、どうしてそんな風になってしまったのだろうか。

『それについては、最近のアルヴァル王国の状態が関係していたのでしょうね』
「状態、ですか?」
『ルナーラだって知っているでしょう? 最近は気温の変化とか、気象の状況が悪いって』
「ああ、そうでしたね」
『祈りを捧げているのに、状況が悪くなる一方……そう考える人が、多かったのでしょうね』

 アルヴァリース様は、少しだけ悲しそうな表情をしていた。
 やはり、アルヴァル王国の変化には心を痛めているのだろう。その表情を見ると、私の方も苦しくなってくる。

「ルナーラ様は、アルヴァリース様の表情や声を聞けますが、他の人はそうではありませんからね。国の変化に、女神様なんていないと考えるようになったのかもしれません」
『それについては、一言言いたいのよね。別に私の加護は、人間を完璧に助けるなんて都合がいいものではないもの。抑えきれない程の気候の変化だってあるわ』
「僕はもちろんわかっていますよ。あくまで、人間の力で努力していきます」
『いい心掛けね。神様を見えるというのに、イグルスもルナーラも立派だわ。まあ、そういう人だからこそ、見えるということなのかもしれないけれど』

 アルヴァリース様は、私達のことを賞賛してくれた。
 ただイグルス殿下はともかく、私は立派なんてことはない。幸運にも女神様を見たり聞けたりできるだけで、特別すごいことができるという訳でもないのである。

「しかし、アルヴァル王国はどうなってしまうのでしょうか。豪雨が続いていると聞いていますが……」
『それについては、私にはわからないわね。あの教授とかの方が、詳しいんじゃないかしら?』
「ああ、それもそうですね」
『まあ、ずっとこのままなんてことはないと思うけれど……とはいえ、加護がない今、アルヴァル王国は元に戻っても厳しい環境になるわね』

 アルヴァル王国という国は、アルヴァリース様ありきの国だった。私は、それを改めて認識していた。
 女神様を排斥した瞬間、アルヴァル王国という国は終わってしまうのだ。その体制が、そもそも無理な話だったのかもしれない。
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