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8.信じる者には
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「ところで、私のことは大丈夫なんですか?」
「ルナーラ様のこと、ですか? それは一体、何の話でしょうか?」
「その……私は、アルヴァル王国の罪人である訳ですから、色々と問題があるのではないかと思いまして」
馬車でイルリース王国の王城に向かうとなってから、私にはずっと気になっていることがあった。
それは、私という罪人の扱いがどうなるかということだ。私の存在が、イルリース王国の不利益になるのではないか、心配なのである。
「問題はありませんよ。元々、アルヴァリース様のことを奉る都合上、アルヴァル王国とは敵対せざるを得ませんからね」
「そうなのですか?」
「アルヴァル王国は女神を切り捨てた訳ですからね。その女神をこちらが崇めるということに対して、良い感情は抱かないでしょう」
「まあ、それはそうですね……」
「あなたを受け入れても、その状況はそれ程変わりません。こういう言い方をすると、あなたやアルヴァリース様は不快に思われるかもしれませんが、一人も二人も変わらないということです」
イグルス殿下は、きちんとした未来を見据えて、私を受け入れるつもりであるようだ。
そのことに、私はとりあえず安心する。
『まあ、ルナーラを冷遇するなんて、私が許さないけれどね』
「アルヴァリース様?」
『私は、私を信じて慕う者には幸せになって欲しいと思っているのよ。これでも、情が深くてね。小さな頃から知っているルナーラには、特に思い入れもあるの』
アルヴァリース様は、私のことをとても気にかけてくれていた。
それ自体は、とても嬉しい。ただ、こんなにも優遇してもらっていいものなのだろうか。
少数とはいえ、アルヴァリース様を信じている者はまだいる。そういった人達のことをアルヴァリース様も見捨てるつもりはないだろうし、大丈夫なのだろうか。
『イグルス、あなたも私のことを信じていたみたいだし、イルリース王国にも多少の加護を与えてあげるわね』
「それはありがたい限りです。ただ、別に僕はあなたのことを崇めていたという訳ではないのですが……」
『こうして、丁重に扱ってくれているのだもの。それだけで充分よ。私はね、恩には報いることにしているの。好意には厚意を返す。それが私の女神としての矜持だから』
アルヴァリース様は、とても良い女神様だ。
その女神様のことを切り捨てるなんて、アルムーガ陛下はなんと愚かな選択をしたことだろうか。
私は、改めてそう思っていた。これからきっと、アルムーガ陛下は女神様の加護の大きさを、身を持って知ることになるだろう。
「ルナーラ様のこと、ですか? それは一体、何の話でしょうか?」
「その……私は、アルヴァル王国の罪人である訳ですから、色々と問題があるのではないかと思いまして」
馬車でイルリース王国の王城に向かうとなってから、私にはずっと気になっていることがあった。
それは、私という罪人の扱いがどうなるかということだ。私の存在が、イルリース王国の不利益になるのではないか、心配なのである。
「問題はありませんよ。元々、アルヴァリース様のことを奉る都合上、アルヴァル王国とは敵対せざるを得ませんからね」
「そうなのですか?」
「アルヴァル王国は女神を切り捨てた訳ですからね。その女神をこちらが崇めるということに対して、良い感情は抱かないでしょう」
「まあ、それはそうですね……」
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イグルス殿下は、きちんとした未来を見据えて、私を受け入れるつもりであるようだ。
そのことに、私はとりあえず安心する。
『まあ、ルナーラを冷遇するなんて、私が許さないけれどね』
「アルヴァリース様?」
『私は、私を信じて慕う者には幸せになって欲しいと思っているのよ。これでも、情が深くてね。小さな頃から知っているルナーラには、特に思い入れもあるの』
アルヴァリース様は、私のことをとても気にかけてくれていた。
それ自体は、とても嬉しい。ただ、こんなにも優遇してもらっていいものなのだろうか。
少数とはいえ、アルヴァリース様を信じている者はまだいる。そういった人達のことをアルヴァリース様も見捨てるつもりはないだろうし、大丈夫なのだろうか。
『イグルス、あなたも私のことを信じていたみたいだし、イルリース王国にも多少の加護を与えてあげるわね』
「それはありがたい限りです。ただ、別に僕はあなたのことを崇めていたという訳ではないのですが……」
『こうして、丁重に扱ってくれているのだもの。それだけで充分よ。私はね、恩には報いることにしているの。好意には厚意を返す。それが私の女神としての矜持だから』
アルヴァリース様は、とても良い女神様だ。
その女神様のことを切り捨てるなんて、アルムーガ陛下はなんと愚かな選択をしたことだろうか。
私は、改めてそう思っていた。これからきっと、アルムーガ陛下は女神様の加護の大きさを、身を持って知ることになるだろう。
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