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16.領民達の風潮

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 私は、ロナード様に領地の村を案内してもらうことにした。
 これから私は彼の妻として暮らしていくことになる。そのため、領地の人々には私のことを知ってもらわなければならない。
 一応、ロナード様が結婚するという事実は既に知らされているそうだ。そのため、特に事情を説明したりする必要はないらしい。

「まあ、村に入れば事情はすぐにわかるだろうさ。俺としては、茶化されないかが心配ではあるな」
「茶化されるって……領地の人達にですか?」
「ああ、そうさ」

 私の言葉に、ロナード様は笑顔を見せた。
 領主、それも国王の弟である彼が茶化されるなんて、そんなのあり得るのだろうか。そのような疑問が湧いてくる。
 いや、それだけ関係が良好ということなのだろうか。

「それは流石に失礼だとか思っているのか?」
「え? あ、いえ、まあ……」
「はは、まあ俺がこんな感じだからな。皆あんまり、俺が王族だという感じはしていないだろうさ。俺はかしこまられるよりも気楽な方がいいから、特に注意もしない。だけどあなたが気にするなら、一言釘を刺しておいた方がいいか」
「いえ、大丈夫です。それがロナード様が作り出した調和であるのなら、私はそれに従います」
「調和か……まあ、そんな大したものではないがな」

 自然か意図的かはわからないが、ロナード様は調和を作り出しているように思える。
 この隔離されたような地域の領主として、領民との関係は常に意識しなければならないことであるだろう。良好な関係を築いていなければ、この地域で暮らしていくことは難しいような気がする。
 それを成し遂げるために、ロナード様はそういう態度を許容しているのではないだろうか。

「この辺りの人達は、皆家族みたいなものなのさ」
「家族、ですか?」
「ああ、皆で助け合って生きていく。そうしなければ、生きていけない。だから、結束力は強くなる。強固になるんだ」
「それは……そうですよね」
「余所者が歓迎されないという訳ではない。重要なのは嫌わないような奴でいることだ。困っていたら助けられるような人間でいることが重要だといえるだろうな」
「肝に銘じておきます」

 私は、ロナード様の言葉にゆっくりと頷いた。
 この辺りは隔離されている。貴族であっても、この地域のルールに従わなければ絶対に痛い目を見ることになるだろう。
 だが、別に特別なことをする必要はない。困っていたら助ける。それは当たり前のことだ。
 領主であっても、領民が困っていたら助けるのだから、どのような立場であってもそれは変わらないことであるだろう。そんな当たり前の人間でいればいいだけなのだ。
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