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8.悪評があっても

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「ロナード様は、わざと無能を演じられているという訳なのですね……」
「まあ、そういうことだと言いたい所だが、別にそういう訳でもないさ」
「え? そうなのですか?」
「兄上は優秀な人間だ。俺なんかよりも、余程優れている。それは、この国の発展を見ればわかるだろう?」
「それは……」
「兄上に比べれば、俺は無能もいい所さ。もちろん、多少は演技した部分もあるが、根本的に俺は兄上に敵う人間ではない」

 ロナード様は、そう言ってへらへらと笑っていた。
 レオルード様よりも自分が劣っている。それが事実であるとでも言いたげだ。
 しかし、本当にそうなのだろうか。私は、またしてもそんな疑問を持っていた。
 真実を聞いても、彼からは底知れない何かを感じるような気がする。これは、私の気のせいなのだろうか。

「それに、だらしない怠け者というのはまったく演技ではない。正直な話、王なんて面倒くさそうな地位はごめんだ」
「あ、そうですか……」

 ロナード様の言葉に、私は先程とはまったく違う感想を抱いた。
 多分、彼は本当に面倒くさがり屋なのだろう。先程までの底知れなさが感じられないその言葉は、真実であるような気がする。

「えっと……そのことをレオルード様は知っているのですか?」
「ああ、もちろん知っているとも。まあ俺は言っていないが、兄上は聡い人だからな。察しているはずさ」
「そうですか……」
「事実として、兄上は俺をこんな場所の領主にした。それは恐らく、俺の意図を汲んでくれたからだろう」
「無能な弟を切り捨てる兄をレオルード様も演じているということですか?」
「そんな所だな……」
 
 レオルード様は、とても賢い王であると有名だ。そんな彼の汚点としてあげられるのは、ロナード様である。
 その汚点を切り捨てた。今のロナード様の状況は、そのように思われているはずだ。
 そこまでやれば、ロナード様を擁立しようとする者も現れるはずはない。事実として、ホルルナも彼を利用できないと判断した訳ではあるし。

「まあ、兄上もわかっているよな。俺にとって、一番いい環境を選んでくれた。ここには何もないから、問題もない。領主としての仕事もそれ程ない。最高の環境だ」
「……それは、だらしなさ過ぎると思います」
「ははっ、そうかい」

 私の言葉に、ロナード様は笑う。
 彼にとって、この環境は本当に良い環境であるようだ。のんびり穏やかに暮らせる。それが彼にとって最高の環境であるのだろう。

「まあ、という訳で、俺の悪評は俺自身が望んだものだ。だから、その辺りに関しては、気にしないでもらいたい」
「はい。それはわかりました。色々と大変なんですね」
「大変ということはないさ。俺はこの生活を気に入っているからな」

 ロナード様にとって、世間の悪評というものは本当にどうでもいいものなのだろう。
 彼の顔を見ていると、そう思える。それ程に、憑き物のない笑顔だったのだ。
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