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1.わがままな妹

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 年の離れた妹のことを、両親は溺愛していた。
 私と妹は、七歳も年の差がある。両親の仲は良好であり、私が生まれてからもずっと第二子を望んでいたらしい。
 しかし中々に努力が実らず、半ば諦めかけていた所でできたのが、妹のエルリナである。そんな妹のことを、両親はとても可愛がっていた。

 今よりももっと幼い頃は、私も両親に賛同していた。
 年の離れた妹は、私にとってもとても可愛く思える存在だったからだ。
 ただ、ある程度の年齢に達した私は、両親が妹のことを決して叱らないということに気付いた。同時に私は、そのままではまずいということも、理解し始めたのである。

「エルリナ、駄目でしょう。きちんと勉強しなければ。家庭教師のマリンソワさんだって、忙しいのよ? あなたの都合だけで、振り回さないで頂戴」
「……ウルティナお姉様、今私は勉強の気分ではないのです。だから、仕方ないではありませんか」

 いつからか私は、両親に代わってエルリナを叱りつけるようになっていた。
 そうしなければならないと、私は本能で思ったのである。
 だが、そんな私に対してエルリナはひどく反発してきた。甘やかされて育ってきた彼女は、いつしかわがままな性格になっていたのだ。

「あなたももう八歳なのだから、わがままを言わないの。そろそろ分別というものを覚えなさい」
「お姉様、私に意見したらどうなるかわかっていないのですか? お父様もお母様も、私の味方なのですよ?」
「っ……」

 エルリナは、自分が愛されているということを理解していた。
 賢い彼女にとって、両親からの寵愛は彼女をつけ上がらせるのに充分なものだったのである。
 両親に味方されては、私も強く言うことができない。二人は、このアヴォイル伯爵家の当主夫妻だ。その二人に逆らうことは、娘の私でもできない。

「そう、それでいいのです。お姉様も、昔みたいに私のことを可愛がってくれればいいのですよ。最近はどうしてか、随分と厳しくなって、私としては悲しい限りです」
「それは……」
「仲の良い姉妹に戻りたいと思っているのは、私だけですかね? まったく、お姉様はどうしてこんなに強情になったのか……」

 エルリナは、私に対して煽るような笑みを向けてきた。
 彼女は、上下関係というものを完全に理解している。それを私に、わからせようとしているのだろう。

 しかし、ここでくじけてはいけない。私まで甘やかしてしまったら、エルリナはこのままわがままな人間になってしまう。
 それだけは避けなければならない。そのために私は、心を鬼にするのだ。
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