私に聖女は荷が重いようなので田舎に帰らせてもらいます。

木山楽斗

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17.安全のために

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 私はロヴァイドとともに、狩人のバルジャスさんの家にお邪魔していた。
 彼は獣や魔物に詳しい人物だ。これからのために、私は魔物に関して勉強しておくことにしたのである。

「これが、魔物図鑑ですか?」
「ああ、そうだぜ。といっても、これは少し古い魔物図鑑だ。全ての魔物を網羅しているという訳ではない。というか、魔物なんてものは全て把握するのは難しい。未だに新種が発見されやがる」
「そうなんですね……」
「それで、こっちが俺達が独自に作った資料だ。ただ、こっちは俺達の予測の部分も大きいから、図鑑と呼べるかは怪しい所だ」
「いえ、その地域で暮らしている人達の方がそういったことは詳しいと思います」

 私は魔物図鑑を開いてみた。そこには、多くの魔物の情報が記載されている。
 これは、学者達が出した本であるため、信憑性は高く情報もしっかりとしているだろう。
 だが、こういった田舎で頼りになるのはその地域の人々が残した記録の方だ。学者達の作った魔物図鑑は一般論しか記載されていないが、地域の人が残した資料には、その地域での特色も記載されている。

「例えば、このナムタジャという魔物がタルックの森に住んでいることなんかは、魔物図鑑ではわからないことですからね……」
「まあ、確かに地域のことを学ぶならこっちの方がいいか……とはいえ、図鑑に助けられることも多いんだがな」
「どちらも大切ではあると思います。でも、こういったことは経験値の方がより大切だと思うのです」
「そういうもんかね……」

 魔物との戦いは、経験がものを言うと騎士団の人から聞いたことがある。
 図鑑と資料、どちらから経験を学べるかといえば、後者の方だろう。自分達の経験を残しておくこと。これは、この村のような地域ではとても重要なことだといえる。

「まあ、でも図鑑も重要なことには変わりませんよね。でも、この図鑑はやっぱり少し古いですね……新しい図鑑とか、購入される予定はありますか?」
「そうしたいのは山々なんだが、お金の問題があるんだよ。結構、すごい値段するんだよな、こういう図鑑って……」
「それなら、私が買います」
「な、なんだって?」
「私が買って、村に寄付します」

 私の言葉に、バルジャスさんは目を丸くしていた。
 だが、これは私にとっても重要なことである。この村の安全を守りたい。そういう気持ちは、私の中にもあるからだ。

「なんだか悪いな、それは……」
「いえ、自分が暮らしている場所の安全を守るのは私の利益になりますから」
「……まあ、そういうことならお願いしようかね」

 バルジャスさんはゆっくりと頷きながらそう言った。
 こうして、私は魔物図鑑を村に寄付することを決めたのだった。
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