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10.陰謀渦巻く王都(モブ視点)
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聖女であるアフィーリがいなくなったことで、王国の監視システムの開発は停滞していた。
彼女がいて辛うじて進んでいた進捗は完全に止まってしまった。優れた統率者がいなくなった今、王国の魔法関連は崩れてしまったのだ。
その事実に、第三王子であるドルマールは頭を抱えていた。自らが担当する魔法関連の仕事が崩れるということは、次期王への道が遠のくことを意味しているからだ。
「一体、何をやっているんだ……あの田舎の平民がいなくなった程度で!」
ドルマールは、机に拳を叩きつけながらそう叫んでいた。
聖女アフィーリを追い出した張本人である彼は、未だに彼女のことを認めていなかった。田舎の平民として彼女を見下していた彼にとって、それを認めることは屈辱でしかなかったのである。
「あの程度の女の代わりが、どうして見つからない……あり得ない、あり得ないことだ!」
アフィーリが王城を去ってから、ドルマールはすぐに代わりの聖女を探した。
しかし、彼女を凌ぐ才能を持つ者は存在しなかった。それは当然のことである。厳正な審査の結果選ばれた聖女の代わりが、そう簡単に見つかるはずはないのだ。
「アフィーリの下に付いていた者は、聖女になりたくないというし……」
アフィーリとともに聖女の候補だった者達は、彼女の下で働いていた。そのため、当然聖女の労働環境は知っている。だから、誰も新たな聖女になりたいとは言わなかったのだ。
初めはドルマールもそれを嘲笑っていた。彼は、新しい聖女がすぐに見つかると高を括っていたのだ。
しかし、結果的にそんな候補は見つかるはずもなく、そのちっぽけなプライドが断った者達を聖女にするという選択を取らせないため、八方が塞がっているというのが彼の現状だ。
「失礼する」
「む? 誰だ?」
「私だ。ドルマール。お前の兄であるダルガリスだ」
「兄上? ……まあ、入ってください」
そんな彼の元を訪ねて来る者がいた。それは、第一王子のダルガリスである。
ドルマールは、嫌な予感を覚えていた。彼と兄達との関係は良好であるとは言い難い。そんな長兄が訪ねてくるということがいいこととは思えなかったのだ。
「何か用ですか? 今、僕は忙しいのですが……」
「お前にいいことを教えてやろうと思ってな」
「いいこと?」
「侯爵令嬢であるトルフェリア・エーケンシスが怪しい動きをしている。どうやら、各地の貴族を集めてお前が作り出している無茶な労働環境を糾弾するつもりのようだ」
「なんですって?」
トルフェリアの行動は、ドルマールにとって予想外のことだった。
だが、より予想外だったのは兄がそれを伝えて来たことである。
どうして彼が、その疑問があった。その情報が偽りではないか、その可能性もドルマールは考える。
「安心しろ、この情報は本当だ。まあ、すぐにわかることだろうがな」
「それをどうして、僕に教えてくださるのです?」
「お前とは競い合っている仲ではあるが、外部から見れば俺達は兄弟だ。弟の腐敗がばれるということは、王族の失脚に繋がりかねない。故に、それを防ぐために行動しただけに過ぎない」
「なるほど、自らの利益のためですか。そういうことならわかりやすい」
ドルマールは、ダルガリスにゆっくりと頷いた。
彼は、兄が自分のためにその事実を告げたと理解した。それなら納得できたからだ。
そういうことなら、その情報を利用するだけである。そう考えて、ドルマールは笑うのだった。
◇◇◇
「さて……」
「ダルガリス様? どうでしたか?」
「すっかりと信じたようだ。こうも簡単であるとつまらないものだな」
「それでは、後は手筈通りにお願いします」
「ああ、わかっている」
「ご協力、感謝いたします」
「感謝したいのはこちらの方だ。身内の膿を取り除けるのだからな」
彼女がいて辛うじて進んでいた進捗は完全に止まってしまった。優れた統率者がいなくなった今、王国の魔法関連は崩れてしまったのだ。
その事実に、第三王子であるドルマールは頭を抱えていた。自らが担当する魔法関連の仕事が崩れるということは、次期王への道が遠のくことを意味しているからだ。
「一体、何をやっているんだ……あの田舎の平民がいなくなった程度で!」
ドルマールは、机に拳を叩きつけながらそう叫んでいた。
聖女アフィーリを追い出した張本人である彼は、未だに彼女のことを認めていなかった。田舎の平民として彼女を見下していた彼にとって、それを認めることは屈辱でしかなかったのである。
「あの程度の女の代わりが、どうして見つからない……あり得ない、あり得ないことだ!」
アフィーリが王城を去ってから、ドルマールはすぐに代わりの聖女を探した。
しかし、彼女を凌ぐ才能を持つ者は存在しなかった。それは当然のことである。厳正な審査の結果選ばれた聖女の代わりが、そう簡単に見つかるはずはないのだ。
「アフィーリの下に付いていた者は、聖女になりたくないというし……」
アフィーリとともに聖女の候補だった者達は、彼女の下で働いていた。そのため、当然聖女の労働環境は知っている。だから、誰も新たな聖女になりたいとは言わなかったのだ。
初めはドルマールもそれを嘲笑っていた。彼は、新しい聖女がすぐに見つかると高を括っていたのだ。
しかし、結果的にそんな候補は見つかるはずもなく、そのちっぽけなプライドが断った者達を聖女にするという選択を取らせないため、八方が塞がっているというのが彼の現状だ。
「失礼する」
「む? 誰だ?」
「私だ。ドルマール。お前の兄であるダルガリスだ」
「兄上? ……まあ、入ってください」
そんな彼の元を訪ねて来る者がいた。それは、第一王子のダルガリスである。
ドルマールは、嫌な予感を覚えていた。彼と兄達との関係は良好であるとは言い難い。そんな長兄が訪ねてくるということがいいこととは思えなかったのだ。
「何か用ですか? 今、僕は忙しいのですが……」
「お前にいいことを教えてやろうと思ってな」
「いいこと?」
「侯爵令嬢であるトルフェリア・エーケンシスが怪しい動きをしている。どうやら、各地の貴族を集めてお前が作り出している無茶な労働環境を糾弾するつもりのようだ」
「なんですって?」
トルフェリアの行動は、ドルマールにとって予想外のことだった。
だが、より予想外だったのは兄がそれを伝えて来たことである。
どうして彼が、その疑問があった。その情報が偽りではないか、その可能性もドルマールは考える。
「安心しろ、この情報は本当だ。まあ、すぐにわかることだろうがな」
「それをどうして、僕に教えてくださるのです?」
「お前とは競い合っている仲ではあるが、外部から見れば俺達は兄弟だ。弟の腐敗がばれるということは、王族の失脚に繋がりかねない。故に、それを防ぐために行動しただけに過ぎない」
「なるほど、自らの利益のためですか。そういうことならわかりやすい」
ドルマールは、ダルガリスにゆっくりと頷いた。
彼は、兄が自分のためにその事実を告げたと理解した。それなら納得できたからだ。
そういうことなら、その情報を利用するだけである。そう考えて、ドルマールは笑うのだった。
◇◇◇
「さて……」
「ダルガリス様? どうでしたか?」
「すっかりと信じたようだ。こうも簡単であるとつまらないものだな」
「それでは、後は手筈通りにお願いします」
「ああ、わかっている」
「ご協力、感謝いたします」
「感謝したいのはこちらの方だ。身内の膿を取り除けるのだからな」
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