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第三章 結ばれる想い

37.お父様には

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「はあ、なんだか最近力が出ないのよね……」
「そうなのかい?」
「ほら、直近で色々とあったでしょう? そのせいで、一気に力が抜けたしまったというか……」

 とある日の昼間、私はイルルドとともに中庭でお茶していた。
 そこで私は、半ば愚痴のようなことを言ってしまっている。あまり良くないことだとわかっているのだが、ついそう思ってしまうのだ。

「燃え尽き症候群って所かな?」
「そうなるわね?」
「それじゃあ、何か刺激的なことが欲しいとか?」
「……まあ、そうなるのかしら? でも、事件がなくて平和なのはいいことだって思うのよ?」
「そっか。まあ、少ししたら治まるんじゃないかな?」
「そうね。時間が一番の薬であるような気もするわ……」

 リビルト様とお母様の事件が解決してから、ローライト侯爵家では特に問題は起こっていない。
 強いて言うなら、私の婚約に関する問題があるだろうか。結局、エルヴィー侯爵家との婚約は破談になった訳なので、私は現在宙ぶらりんの状態だ。

「婚約か……」
「姉さん? どうかしたのかい?」
「えっと……ほら、私は今婚約者もいない訳じゃない? まあ、それに関してはどうでもいいのよ。それは、お父様が解決してくれる問題だし」
「ああ……うん。そうかな?」
「でも、お父様の方はどうなのかって思ってしまってね? ほら、今は独り身な訳だし……」
「父様か……」

 そこで私は、とあることが少し気になった。
 当然のことながら、お父様とお母様は既に離婚している。つまり、私と同じようにお父様もフリーなのだ。
 しかしお父様は、なんというか自分から結婚の話に興味を持ったりしないような気がする。それが私は心配なのだ。

「まあ、父様も独り身でいたいという可能性もあるし……」
「でもお父様には、支えてくれる人がいた方がいいと思うのよね……一人だと、やっぱりちょっと危なっかしいし」
「それには僕も同意するけれど、こればっかりはどうにもならないことだし……」
「どこかに良い人でもいればいいのだけれどね……ああほら、例えばメイド長とかどうかしらね? 彼女は独身だし、年齢的にもお父様とそれ程変わらないし」
「メイド長? ああ、丁度そこにいるね? うん?」

 私達が話していると、辺りを偶然メイド長が通りかかった。そんな彼女のことを、私は冗談半分で口に出したつもりだ。
 しかし、その言葉を聞いたメイド長は、彼女にしては珍しくその場で盛大に躓いた。
 その様子を見て、私とイルルドは顔を見合わせた。これはもしかしたら、本当にもしかするかもしれないと。
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