誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?

木山楽斗

文字の大きさ
18 / 28

18.それぞれの事情で

しおりを挟む
 アルディス様は、しばらくルーミルに留まるつもりらしい。
 ヴェリトン伯爵にも、許可は貰っているようだ。家としても、マートン伯爵家との婚約を望んでいるということだろうか。

 そのアルディス様の来訪によって、私の正体はバラント商会にほぼ知られてしまった。
 しかし当日にも気にされなくなったように、次の日に出勤した時も特に何も言われなかった。皆、仕事に忙殺されているということかもしれない。

「まあ、色々とある人も多いですからね。ミリーシャさんのような方は流石に珍しいものではありますが、例がない訳でもありません」
「そうなのですか……」

 その件について、チャルテッドさんからはそのようなことを告げられた。
 バラント商会は大きな商会であるため、色々なことを経験しているということなのだろう。それなら特に心配する必要はなさそうだ。

「ミリーシャさんにも色々とあるとは思いますが、私達としてはとりあえずいてもらえると助かります。貴重な戦力ですからね」
「そう言ってもらえるのは、嬉しいです」
「言っておきますが、お世辞ではありませんよ」

 チャルテッドさんは、私に対して笑顔を向けてきた。その表情からは、本当に心から私を頼りにしてくれていることが伝わってくる。
 それが私は、とても嬉しかった。誰かに頼られるというのは、やはり良いものだと改めて思う。

「まあとにかく、ミリーシャさんが特別何かを気にする必要はないということです」
「ありがとうございます、チャルテッドさん。色々とお世話になって……」
「いえいえ、私は別に何も……」
「……さてと、私はお先に失礼させてもらいますね」
「はい、お疲れ様です」

 就業時間は、既に過ぎている。ただチャルテッドさんはまとめ役ということもあって、まだ色々とやることがあるようだ。
 大変だと思いながらも、私はバラント商会の拠点から出て行く。チャルテッドさんには悪いが、私はもうくたくただ。メセリアやリエネッタさんも部屋で待っているだろうし、できるだけ早く帰りたい所である。

「もう日も暮れそうだし……うん?」

 外に出てきた私は、周囲を見渡して動きを止めることになった。
 商会の拠点の近くに豪勢な馬車が止まっていたからだ。それは明らかに、貴族の馬車である。
 その馬車の目的が、誰であるかは考えるまでもない。十中八九、私であるだろう。これは少し、気を引き締めなければならない。

「……やっと出てきたか」
「……バラント商会の仕事は、やはり大変ということかしらね」
「まあ、そういうことだろう。少し気が引けるな……だが、行くしかない」

 それから私の耳に、聞き覚えがある声が聞こえてきた。
 ある程度予測していたことではあるが、やはり二人は私の元に来たようだ。イグニスとシスティア、その二人は何故かアルディス様とともに、馬車から出てきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

殿下は婚約破棄した私を“横領犯”として追放しましたが、私が“王国の財布”だとご存じなかったのですか?

なかすあき
恋愛
王太子の婚約者であるレティシアは、愛ではなく“王国の財布”に選ばれた内政官だった。 干ばつ救済基金を管理し、徴税と支出の流れを整え、国が崩れないように回してきたはずなのに。 舞踏会の夜。 聖女セシルの涙と王太子の言葉が、レティシアを一瞬で“横領犯”に仕立て上げる。 反論しても届かない。空気が判決を下す場所で、レティシアは追放された。 落とされた先は、干ばつに喘ぐ辺境。 水のない井戸、荒れた配給所、怒りの列。 レティシアは泣く代わりに、配給と水路と記録を整えた。奇跡ではなく、段取りで。 やがて王都は、レティシアがいなくなった穴から静かに壊れ始める。 支払いは止まり、責任は溶け、聖女の“物語”だけが空回りする。 呼び戻しの使者が来ても、レティシアは従わない。戻る条件はひとつ。 ――公開監査。 記録水晶が映し出すのは、涙では隠せない日付と署名、そして“誰が何を決めたか”という事実。 この逃げ場のない復讐劇の先に残るのは、王都の再起ではなく、辺境の明日だった。 これは、道具として捨てられた内政官が、二度と道具に戻らず、“責任を固定する”ことで国を救い、自分の居場所を選び直す物語。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します

nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。 イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。 「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」 すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。

処理中です...