誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?

木山楽斗

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8.傍に仕えし者

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「お帰りなさいませ、ミリーシャ様」
「リエネッタさん……ただいま、帰りました」

 バラント商会では、労働者に住む場所が提供されている。町の一角にある集合住宅の一室で、私は今暮らしているのだ。
 ただ、一人暮らしという訳ではない。メイドであるリエネッタさんが、私の身の周りの世話をしてくれているのだ。

 リエネッタさんは、マートン子爵家でも私の身の周りのお世話をしてくれていた。令嬢とメイドという立場ではあるが、私にとって彼女は気心が知れた存在だ。
 そんな彼女は、かつてラナフィス子爵家に仕えていたらしい。リエネッタさんは、私の母についてマートン伯爵家で勤めることになったのだ。

「夕食の準備はもうすぐ終わりますので、しばしお待ちを」
「ありがとうございます……」
「……どうかされましたか?」

 リエネッタさんは私の家出という大胆な行動も咎めず、ついて来てくれた。
 というか、本当は彼女も欺いてラナフィス子爵家を訪ねようと思ったのだが、普通にばれてしまったのである。
 ただ彼女は、深く事情を聞くこともなく同行を申し出てくれた。マートン子爵家ではなく、私への忠義を選んでくれたようだ。

「いいえ、その、私としてはこれ以上リエネッタさんのお世話になるのは気が引けるのですが……もうあなたを雇える立場でもない訳ですし」
「ラナフィス子爵家から、ミリーシャ様のことを頼まれていますから」
「そうですか……」

 リエネッタさんの真意というものは、実の所よくわかっていない。彼女はメイドの鑑のような人なので、基本的にあまり感情を表に出さず多くを語らないのだ。
 現在、このように私に付き従っていることも、本当にラナフィス子爵家から頼まれているからなのだろうか。そのようなことを祖父母や伯父夫妻から聞いてはないのだが。

「それに亡き奥様からも、ミリーシャ様のことを頼まれております」
「お母様、ですか……?」
「ええ、私はあの方にずっと付き従っていました。今でも気持ちは変わっておりません。私はあのお方のメイドなのです」
「それは……」

 リエネッタさんは、いつも通りに表情を変えずに言葉を発していた。
 ただ今回は、その言葉から意思が少しだけ読み取れる。本当にお母様のことを大切に思っていたのだろう。それが確かに伝わってきた。

 お母様の意思を尊重し続けている。そんなリエネッタさんには、感謝の気持ちしかない。
 同時に母へも感謝するとしよう。母のお陰で、私は心強い味方を得られたのだから。
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