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18.二人の逸材(モブ視点)
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ボーキンス侯爵家に戻ってきたバラルドは、父親である侯爵に呼び出されていた。
ことの顛末は、既に父親に伝えていた。イルフェリアとの婚約破棄、バラルドはそれに父も賛同してくれると思っていたのだ。
しかしその期待は外れていた。ボーキンス侯爵は、明らかに怒っていたのである。
「ち、父上、何をそんなに怒っているのです?」
「それがわからない程に愚かだとは驚きだな、バラルド。お前は自分が何をしたのかわかっているのか?」
「イルフェリアとの婚約破棄のことですか? しかしですね。彼女はアルネシアに比べてかなり劣っています。そんな彼女が僕の婚約者に相応しい訳がないでしょう」
バラルドにとって、イルフェリアとの婚約は受ける必要がないものだった。
アルネシアのような才能に溢れた人であるならばともかく、イルフェリアは自分には似合わないと彼は本気で思っていたのだ。
そんな息子に対して、侯爵はため息をつく。彼は、ひどく不機嫌な様子だ。
「お前は、人にそんなことを言える立場なのか?」
「な、なんですって?」
「お前はお世辞にも出来がいいという訳ではなかろう。お前は、遊び惚けてばかりの愚か者でしかない。アルネシア嬢もイルフェリア嬢も、私が知っている限りではお前よりも遥かに能力が上だ」
「そ、それは……」
バラルドは、父親の発言に怯んでいた。
彼自身も、自分が遊んでばかりという自覚はあったのだ。
「そもそもの話、アルネシア嬢とイルフェリア嬢を比較する必要がどこにあるのだ?」
「ゆ、優秀であるかどうかは重要でしょう?」
「確かにアルネシア嬢は優秀だった。彼女は千年に一度の逸材であるだろう」
「ほら、父上もわかっているではありませんか?」
「しかし、イルフェリア嬢だって百年に一度の逸材ではある。多くの者はあの姉妹を比べて妹を劣っていると評することもあるが、あの二人はどちらも天才の部類だ。恐らく、才女と名高いマーガレット・エルベルト侯爵夫人の血を継いだのだろう」
「……なんですって?」
バラルドは、父親が言っていることが理解できなかった。
イルフェリアもまた天才である。彼はそんなことは、まったく知らなかったのだ。
それはイルフェリア自身も含めて、多くの人が勘違いしていることだった。ただアルネシアが、規格外だったというだけなのだ。
「しかし、バラルドよ。お前の勝手な行いは目に余る。この私ももう面倒を見切れん」
「なっ、それはどういうことですか?」
「この侯爵家を継ぐのはお前の兄であることはわかっているだろう。故にお前は、婿に出さなければならなかった。だが、お前はその選択を自ら蹴ったのだ。こちらはもうお前に干渉しない。これからは好きに生きるがいい。この家から出てな?」
「そ、そんな……」
父の言葉に、バラルドはひどく動揺していた。
自分があくまで婿に行く立場であるということ。それを彼は、理解していなかったのだ。
こうしてバラルドは、自分の判断によって侯爵家を出て行かざるを得ない状況に陥ったのだった。
ことの顛末は、既に父親に伝えていた。イルフェリアとの婚約破棄、バラルドはそれに父も賛同してくれると思っていたのだ。
しかしその期待は外れていた。ボーキンス侯爵は、明らかに怒っていたのである。
「ち、父上、何をそんなに怒っているのです?」
「それがわからない程に愚かだとは驚きだな、バラルド。お前は自分が何をしたのかわかっているのか?」
「イルフェリアとの婚約破棄のことですか? しかしですね。彼女はアルネシアに比べてかなり劣っています。そんな彼女が僕の婚約者に相応しい訳がないでしょう」
バラルドにとって、イルフェリアとの婚約は受ける必要がないものだった。
アルネシアのような才能に溢れた人であるならばともかく、イルフェリアは自分には似合わないと彼は本気で思っていたのだ。
そんな息子に対して、侯爵はため息をつく。彼は、ひどく不機嫌な様子だ。
「お前は、人にそんなことを言える立場なのか?」
「な、なんですって?」
「お前はお世辞にも出来がいいという訳ではなかろう。お前は、遊び惚けてばかりの愚か者でしかない。アルネシア嬢もイルフェリア嬢も、私が知っている限りではお前よりも遥かに能力が上だ」
「そ、それは……」
バラルドは、父親の発言に怯んでいた。
彼自身も、自分が遊んでばかりという自覚はあったのだ。
「そもそもの話、アルネシア嬢とイルフェリア嬢を比較する必要がどこにあるのだ?」
「ゆ、優秀であるかどうかは重要でしょう?」
「確かにアルネシア嬢は優秀だった。彼女は千年に一度の逸材であるだろう」
「ほら、父上もわかっているではありませんか?」
「しかし、イルフェリア嬢だって百年に一度の逸材ではある。多くの者はあの姉妹を比べて妹を劣っていると評することもあるが、あの二人はどちらも天才の部類だ。恐らく、才女と名高いマーガレット・エルベルト侯爵夫人の血を継いだのだろう」
「……なんですって?」
バラルドは、父親が言っていることが理解できなかった。
イルフェリアもまた天才である。彼はそんなことは、まったく知らなかったのだ。
それはイルフェリア自身も含めて、多くの人が勘違いしていることだった。ただアルネシアが、規格外だったというだけなのだ。
「しかし、バラルドよ。お前の勝手な行いは目に余る。この私ももう面倒を見切れん」
「なっ、それはどういうことですか?」
「この侯爵家を継ぐのはお前の兄であることはわかっているだろう。故にお前は、婿に出さなければならなかった。だが、お前はその選択を自ら蹴ったのだ。こちらはもうお前に干渉しない。これからは好きに生きるがいい。この家から出てな?」
「そ、そんな……」
父の言葉に、バラルドはひどく動揺していた。
自分があくまで婿に行く立場であるということ。それを彼は、理解していなかったのだ。
こうしてバラルドは、自分の判断によって侯爵家を出て行かざるを得ない状況に陥ったのだった。
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