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9.彼女の素性

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「……私は、イルフェリアと申します。あなたの名前を教えていただけないでしょうか?」
「あ、自己紹介がまだでしたね……」

 とりあえず私は、女性の素性を聞いてみることにした。
 お姉様とそっくりな彼女は、私を見ても特に表情を変えていない。演技という可能性もない訳ではないが、彼女は私のことを知らないようだ。
 つまり、女性はお姉様ではないと考えるべきだろうか。しかしとにかく、彼女が何者であるかが知りたかった。

「私は、レネシアと申します。隣国のペリュトン共和国から、所用でやってきた修道女です」
「ペリュトン共和国から?」
「ええ、こちらの国にいる恩師に会いに来たのです」
「なるほど……」

 レネシアさんの説明に、私の心は少しだけ冷え込んだ。
 やはり彼女は、お姉様という訳ではなさそうである。ささやかな望みが打ち砕かれたのは、少し悲しい。
 しかしそれは、仕方ないことだ。そもそも淡い希望であった訳だし、過度な期待をする方が間違いである。

「ペリュトン共和国のご出身だったのですね……なんというか、すごい偶然です」
「偶然?」
「ええ……」

 そこで私は、話を変えることにした。
 いつまでもお姉様の幻想を引っ張っていてはいけない。そう思ったからだ。
 世の中にはそっくりな人が三人はいるというし、彼女もきっとそういうことなのだろう。

「実の所私も、ペリュトン共和国に向かっていたのです。事情があって、あちらの国に移り住もうと思っていて……」
「ああ、そうだったのですか……確かにそれは、すごい偶然ですね」

 私の言葉に、レネシアさんは少し驚いたような顔をした。
 ペリュトン共和国に向かっている私が、その国の出身者を助けた。それは、それなりすごい偶然であるだろう。
 しかも彼女は知らないことではあるが、私にとってはもう一つ運命を感じることがあった。きっとここでレネシアさんと出会ったのは、縁があったということなのだろう。

「レネシアさん、もしもよろしかったら、これからの旅はご一緒しませんか?」
「え?」
「その……一人だと何かと不安ですから、誰かと一緒がいいんです。駄目でしょうか?」

 そこで私は、レネシアさんにそんな提案をしていた。
 彼女に述べた理由は、紛れもなく私の本心だ。しかし実の所、この提案をした理由は他にもある。

 レネシアさんがお姉様に似ているということは、この国において彼女にとっては不利になることだ。お父様やお母様に見つかったら、厄介なことになるだろうし、彼女にはできるだけ早く祖国に帰ってもらいたかった。
 故に私は、旅の同行を提案したのである。それなら彼女の旅路をある程度操作することができるし、色々と丁度いいだろう。

「……イルフェリアさんは、お優しい方なのですね」
「え?」
「私を心配してくださっているのでしょう? ありがとうございます……それなら、イルフェリアさんの厚意に甘えさせていただきます」

 レネシアさんは、少々勘違いをしながら私の提案を受け入れてくれた。
 こうして私は、姉とそっくりな人物と旅路をともにすることになったのだった。
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