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8.倒れていた女性
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私は御者とともに、最寄りの町へと引き返すことになった。
行き倒れていた人物を、お医者様に診せる必要があったからだ。
本来であれば、町に戻った後私は改めて出発しようなどと思っていた。
しかし行き倒れた人物の顔を見て、彼女に付き添わざるを得なくなっていた。お姉様とそっくりな顔をした彼女を、色々な意味で放置しておけなかったのである。
「……あれ? ここは?」
「ああ、目が覚めたのですね……」
診療所のベッドの上で、修道服の女性はゆっくりと目を覚ました。
彼女は、困惑している様子だ。どこまで覚えているかはわからないが、意識を失う前にいた場所とまったく違う場所にいることに驚いているようである。
「覚えていませんか? あなたは、道端で倒れていたのですけれど……」
「そ、そうだったのですか? ああ……でも言われてみれば、確かにその辺りからの記憶がありません、ね」
修道服の女性は体を起こした後、頭を抱えながらそんなことを呟いた。
やはり倒れる前の記憶は曖昧であるらしい。何が起こったか、彼女自身は把握できていないようだ。
それは少々困ったことではある。なぜなら、彼女が倒れた原因はよくわかっていないからだ。
「お医者様の見立てでは、貧血ではないかということでしたけれど、覚えはありますか?」
「貧血……そうかもしれませんね。少々貧血気味であることは自覚しています」
「ああ、そうなのですね……」
お医者様の診断は、とても曖昧な感じだった。
外傷はなく、特に体に異常もない。強いて言うなら、貧血という結論だったのだ。
故に私は、何かしらの事件などに巻き込まれた可能性なども危惧していた。しかし、そういう訳ではなかったようだ。それならなんというか、安心することができる。
「えっと、あなた様が助けてくださったのですか?」
「まあ、一応そういうことにはなるでしょうか……でも、あなたを見つけたのは私が乗っていた馬車の御者です。彼は仕事に戻りました。私は特に急ぎの用時もないので、あなたに付き添っていたという訳です」
「そうなのですね。助けていただき、その上お気遣いくださり、本当にありがとうございます」
修道服の女性は、私に対してゆっくりと頭を下げてきた。
その丁寧なお礼の言葉に、私は少し尻込みしてしまう。私がここに残ったのは、完全に私情だったからだ。
彼女を騙すようなことになってしまったのは、非常に申し訳ない。だが、私は確かめなければならないのだ。彼女が何者であるかということを。
行き倒れていた人物を、お医者様に診せる必要があったからだ。
本来であれば、町に戻った後私は改めて出発しようなどと思っていた。
しかし行き倒れた人物の顔を見て、彼女に付き添わざるを得なくなっていた。お姉様とそっくりな顔をした彼女を、色々な意味で放置しておけなかったのである。
「……あれ? ここは?」
「ああ、目が覚めたのですね……」
診療所のベッドの上で、修道服の女性はゆっくりと目を覚ました。
彼女は、困惑している様子だ。どこまで覚えているかはわからないが、意識を失う前にいた場所とまったく違う場所にいることに驚いているようである。
「覚えていませんか? あなたは、道端で倒れていたのですけれど……」
「そ、そうだったのですか? ああ……でも言われてみれば、確かにその辺りからの記憶がありません、ね」
修道服の女性は体を起こした後、頭を抱えながらそんなことを呟いた。
やはり倒れる前の記憶は曖昧であるらしい。何が起こったか、彼女自身は把握できていないようだ。
それは少々困ったことではある。なぜなら、彼女が倒れた原因はよくわかっていないからだ。
「お医者様の見立てでは、貧血ではないかということでしたけれど、覚えはありますか?」
「貧血……そうかもしれませんね。少々貧血気味であることは自覚しています」
「ああ、そうなのですね……」
お医者様の診断は、とても曖昧な感じだった。
外傷はなく、特に体に異常もない。強いて言うなら、貧血という結論だったのだ。
故に私は、何かしらの事件などに巻き込まれた可能性なども危惧していた。しかし、そういう訳ではなかったようだ。それならなんというか、安心することができる。
「えっと、あなた様が助けてくださったのですか?」
「まあ、一応そういうことにはなるでしょうか……でも、あなたを見つけたのは私が乗っていた馬車の御者です。彼は仕事に戻りました。私は特に急ぎの用時もないので、あなたに付き添っていたという訳です」
「そうなのですね。助けていただき、その上お気遣いくださり、本当にありがとうございます」
修道服の女性は、私に対してゆっくりと頭を下げてきた。
その丁寧なお礼の言葉に、私は少し尻込みしてしまう。私がここに残ったのは、完全に私情だったからだ。
彼女を騙すようなことになってしまったのは、非常に申し訳ない。だが、私は確かめなければならないのだ。彼女が何者であるかということを。
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