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2.不慮の事故
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私は、とある事故が起こった現場にやって来ていた。
そこには、惨劇の痕が刻まれていた。崖は大きく崩れており、その遥か下には一台の馬車が倒れている。
ボロボロになった馬車は、原形を留めていなかった。その残骸が、事故の悲惨さを物語っている。
「なんということだ……アルネシアは、どうなったのだ?」
「御者と馬の死体は見つかったのですが、アルネシア様は見つかっていません」
「生きているということか?」
「わかりません。ただ、馬車が落ちた時点で生存していたのは確かでしょう。その後、馬車から抜け出したのかと……」
お父様は、兵士らしき人とそのような会話を交わしていた。
かなりの高さがあるため、普通に考えたらお姉様は無事では済んでいないだろう。
怪我をした体で、この広大な森を彷徨ったらどうなるか。それは明白である。
「もう馬車が落ちてから二日近く経っているのだぞ? アルネシアを見つけることは、まだできていないというのか!」
「そ、そんなに遠くに行ったとは考えにくいのですが……」
「考えにくいも何も、実際にアルネシアは見つかっていないのだろう? それなら、捜索範囲を広げろ!」
「も、もちろん、そのつもりです」
お姉様が早く見つかって欲しい。その想いは、私もお父様もお母様も同じだった。
優秀な長女を失うことは、両親にとっては大きな損失である。私も、唯一の支えといってもいい姉を失いたくはない。故に私達は、この時だけは一丸になっていたと思う。
「我々も下に下りて側索に参加するぞ?」
「ええ、それは構いませんが……二次被害が出ないでしょうか?」
「私達にできる範囲を兵士に教えてもらおう。とにかく、人員が必要だ。イルフェリア、お前も来い。子供の目でしか見えないものがあるかもしれない」
「はい、もちろんです」
私はお父様の指示に、ゆっくりと頷いた。
迷いは特になかった。お姉様を見つけるためならなんでもしたい。その時の私は、そう思っていたのである。
思い返してみると、子供の私を捜索に参加させるというのは非常に危険であるとしか言いようがないことだ。その判断をした時点で、お父様やお母様がどれだけ私に冷たかったかということがわかる。
「ああ神様、どうかアルネシアをお救いください……あの子は、あの子は大切な私の子なのです。あの子を私から奪わないでください」
お母様は、神様に縋っていた。
しかしその時の言葉の意味を、当時の私は完全に理解していなかったといえるだろう。彼女は暗に恐ろしいことを言っていたのだ。
「お姉様……」
何はともあれ、お姉様の捜索が始まった。
しかし結局の所、お姉様が見つかることはなかった。彼女は広大なる森の中で、行方不明になってしまったのである。
そこには、惨劇の痕が刻まれていた。崖は大きく崩れており、その遥か下には一台の馬車が倒れている。
ボロボロになった馬車は、原形を留めていなかった。その残骸が、事故の悲惨さを物語っている。
「なんということだ……アルネシアは、どうなったのだ?」
「御者と馬の死体は見つかったのですが、アルネシア様は見つかっていません」
「生きているということか?」
「わかりません。ただ、馬車が落ちた時点で生存していたのは確かでしょう。その後、馬車から抜け出したのかと……」
お父様は、兵士らしき人とそのような会話を交わしていた。
かなりの高さがあるため、普通に考えたらお姉様は無事では済んでいないだろう。
怪我をした体で、この広大な森を彷徨ったらどうなるか。それは明白である。
「もう馬車が落ちてから二日近く経っているのだぞ? アルネシアを見つけることは、まだできていないというのか!」
「そ、そんなに遠くに行ったとは考えにくいのですが……」
「考えにくいも何も、実際にアルネシアは見つかっていないのだろう? それなら、捜索範囲を広げろ!」
「も、もちろん、そのつもりです」
お姉様が早く見つかって欲しい。その想いは、私もお父様もお母様も同じだった。
優秀な長女を失うことは、両親にとっては大きな損失である。私も、唯一の支えといってもいい姉を失いたくはない。故に私達は、この時だけは一丸になっていたと思う。
「我々も下に下りて側索に参加するぞ?」
「ええ、それは構いませんが……二次被害が出ないでしょうか?」
「私達にできる範囲を兵士に教えてもらおう。とにかく、人員が必要だ。イルフェリア、お前も来い。子供の目でしか見えないものがあるかもしれない」
「はい、もちろんです」
私はお父様の指示に、ゆっくりと頷いた。
迷いは特になかった。お姉様を見つけるためならなんでもしたい。その時の私は、そう思っていたのである。
思い返してみると、子供の私を捜索に参加させるというのは非常に危険であるとしか言いようがないことだ。その判断をした時点で、お父様やお母様がどれだけ私に冷たかったかということがわかる。
「ああ神様、どうかアルネシアをお救いください……あの子は、あの子は大切な私の子なのです。あの子を私から奪わないでください」
お母様は、神様に縋っていた。
しかしその時の言葉の意味を、当時の私は完全に理解していなかったといえるだろう。彼女は暗に恐ろしいことを言っていたのだ。
「お姉様……」
何はともあれ、お姉様の捜索が始まった。
しかし結局の所、お姉様が見つかることはなかった。彼女は広大なる森の中で、行方不明になってしまったのである。
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