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1.優秀な姉

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 人に期待されるというのは、そんなに気分がいいことではない。
 期待されるということは、それに応えられなければ失望されるということを表している。それが私は、すごく嫌だった。

「イルフェリア、どうしてこんな簡単なこともできないのだ?」
「アルネシアを見習いなさい。あの子は、この程度のことは簡単にこなせるのよ?」

 父も母も、私に対して過度な期待を抱いていた。
 その原因は、私の姉であるアルネシアにあるといえるだろう。

「裏切られた気分だ。お前には期待していたというのに……」
「どうして、アルネシアとこんなに違うのかしら……」

 アルネシアは、優秀な人間だった。文武両道であり、魔法の分野でもその才覚を発揮していた。彼女のような才女を、人はきっと天才と呼ぶのだろう。
 私は、そんな姉と比較されてきた。お姉様ならできるのに、その言葉を何度聞いたことだろうか。

「お父様、お母様、イルフェリアを責めるのはやめてください」
「アルネシア? 来ていたのか?」
「イルフェリアは、必死に努力しています。確かに私には多少及ばないのかもしれませんが、それでも充分ではありませんか」

 幸か不幸か、姉であるアルネシアは私の味方だった。
 彼女は、人格面まで非の打ちようがない人だったのだ。
 それは、私の劣等感を加速させた。逆立ちしても勝つことができない姉の存在は、私にとってとても大きな壁だったのだ。

「アルネシア、イルフェリアはお前と同じで私達の娘なのだぞ? エルベルト侯爵家の次女なのだ。それが、この程度のこともできないなど……」
「先程の魔法は、彼女の年齢でできるようなものではありません。今の魔法を学ぶのは、二年は早いといえるでしょう。危険過ぎます」
「あなたは、イルフェリアよりも幼い頃からできていたじゃない」
「それは……私が、偶々その魔法に対する才能があっただけです」

 お父様とお母様にそう言い切ってから、お姉様は私に歩み寄ってきた。
 彼女は、ゆっくりとその手を私に差し伸べてくる。私は少し迷いながらも、その手を取る。

「イルフェリア、行きましょう?」
「お姉様……」
「お父様とお母様、いいですね?」
「……まあ、いいだろう」
「……まったく」

 お父様もお母様も、お姉様には逆らうことができなかった。
 それは彼女が、自分達よりも遥かに優秀であるということがわかっていたからなのだろう。
 それをなんとなく察していた私は、いつもお姉様に甘えていた。私にとって、お姉様は壁であるとともに支えだったのだ。
 しかし私は、突如その支えをなくすことになった。お姉様は、行方不明になったのだ。
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