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エピローグ
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生まれ時から心の中にいる竜という生物は、私にとっては父親のような兄のような複雑な存在であった。
彼はいつも私のことを見守ってくれている。いざという時はその力を解放して守ってくれるし、とても頼りになる存在だと思う。
「外に出たいとか、思わないの?」
「昔はそう思うこともあった。だが今は、そのようなことは思っていない。お前を見守ること……正確に言えば、かつて俺を心に宿していた少女の子孫を見守ることが、俺の一番の楽しみだからだ」
「そういうものなの?」
「そういうものなのだ」
竜は、とても穏やかな口調で私にそう語ってくれた。
私なんかの人生はそんなに楽しいものではないと思うけれど、竜がそう言うならそれでいいのだろう。そもそも、彼を外に出す方法なんて私にはわからないし。
「それに今の世の中、竜などという存在が表に出て行くと厄介なことになるだろう」
「それはそうなのかもしれないね。私達みたいなのは特別だって、お母さんもそう言っていたし……」
「かつてはありふれていたものだったのだがな。不思議なものだ」
「長い間生きているとそんな感じになるんだね? いや、生きているっていうのかな? ずっと人の中にいる訳だし、それはちょっと微妙だったりする?」
「さて、どうだろうな? しかし今まで退屈したことはないぞ? あの少女の子孫は、皆不思議なくらい俺を受け入れている」
「まあ、半身みたいなものだしね?」
「嬉しいことを言ってくれるな?」
私にとって竜は、そこにいるものだった。
だから、嫌だとか思うことなんてない。むしろ、心の中にいてくれないと不安になってしまうだろう。
そのため、私から竜がいなくなる時が少し怖かった。何れはそうなるらしいのだが、そうなったらきっとすごく寂しいと思う。
「そのようなことはないさ。何せ俺がお前からいなくなる時には、お前にはもっと頼りになる相手がいるということだからな」
「結婚するってこと? でももしも仮にそうなるとしても、それとこれとは話が別だって思うけど」
「別れというのはいつか訪れるものだ」
「まあ、そうなんだよね……」
竜は今まで、ずっと別れを経験してきたのだろう。その言葉には、実感が籠っている。
だから私は、彼の言葉に頷くことしかできなかった。結局の所、私はその時が来るまで彼との時間を大切にするしかないのだろう。
「……すまない、お嬢さん。少しいいだろうか?」
「え?」
そこで私に話しかけてくる人がいた。その男性は、困ったような顔をしている。もしかして、他の人には聞こえない竜の声と会話をしていた私を変に思っているのだろうか。
「な、なんですか?」
「俺の勘違いだったら申し訳ないが、もしかしたらあなたの心の中には誰かがいるんじゃないか?」
「え? どうしてそれを……あれ?」
男性の言葉に、私は驚いた。竜の存在は、世間では知られていないものだったからだ。
しかしその理由はすぐにわかった。私も感じたからだ。彼の中に誰かがいるのを。
「ほう……まさか、お前と再会するとはな?」
「運命というものは数奇なものだな」
「この声は……」
「ああ、まさかあなたも竜を?」
「ええ……」
どうやら私達は、お互いに竜を宿しているようだ。
それに関しては、私も聞いたことがある。かつて竜は、二体に分かれたのだと。
その竜を宿した人が、私の前に現れた。それはすごいことだ。竜ももう一体の所在は知らないと言っていたし。
「……せっかくですから、少しお話しませんか?」
「む……」
「竜も積もる話があるでしょうし、私もあなたと色々と話してみたいことがあります」
「……なるほど、確かに俺もそうだ。それでは近くのカフェにでも行くとしようか」
「ええ、そうしましょう」
私は彼の言葉に、ゆっくりと頷いた。
同じ竜を宿しているからだろうか、私は彼とすごく話がしてみたかった。何故か妙に私は、彼に惹かれていたのである。
こうして、私は彼とともに歩き始めた。その数奇な巡り会いに、奇妙な縁を感じながら。
彼はいつも私のことを見守ってくれている。いざという時はその力を解放して守ってくれるし、とても頼りになる存在だと思う。
「外に出たいとか、思わないの?」
「昔はそう思うこともあった。だが今は、そのようなことは思っていない。お前を見守ること……正確に言えば、かつて俺を心に宿していた少女の子孫を見守ることが、俺の一番の楽しみだからだ」
「そういうものなの?」
「そういうものなのだ」
竜は、とても穏やかな口調で私にそう語ってくれた。
私なんかの人生はそんなに楽しいものではないと思うけれど、竜がそう言うならそれでいいのだろう。そもそも、彼を外に出す方法なんて私にはわからないし。
「それに今の世の中、竜などという存在が表に出て行くと厄介なことになるだろう」
「それはそうなのかもしれないね。私達みたいなのは特別だって、お母さんもそう言っていたし……」
「かつてはありふれていたものだったのだがな。不思議なものだ」
「長い間生きているとそんな感じになるんだね? いや、生きているっていうのかな? ずっと人の中にいる訳だし、それはちょっと微妙だったりする?」
「さて、どうだろうな? しかし今まで退屈したことはないぞ? あの少女の子孫は、皆不思議なくらい俺を受け入れている」
「まあ、半身みたいなものだしね?」
「嬉しいことを言ってくれるな?」
私にとって竜は、そこにいるものだった。
だから、嫌だとか思うことなんてない。むしろ、心の中にいてくれないと不安になってしまうだろう。
そのため、私から竜がいなくなる時が少し怖かった。何れはそうなるらしいのだが、そうなったらきっとすごく寂しいと思う。
「そのようなことはないさ。何せ俺がお前からいなくなる時には、お前にはもっと頼りになる相手がいるということだからな」
「結婚するってこと? でももしも仮にそうなるとしても、それとこれとは話が別だって思うけど」
「別れというのはいつか訪れるものだ」
「まあ、そうなんだよね……」
竜は今まで、ずっと別れを経験してきたのだろう。その言葉には、実感が籠っている。
だから私は、彼の言葉に頷くことしかできなかった。結局の所、私はその時が来るまで彼との時間を大切にするしかないのだろう。
「……すまない、お嬢さん。少しいいだろうか?」
「え?」
そこで私に話しかけてくる人がいた。その男性は、困ったような顔をしている。もしかして、他の人には聞こえない竜の声と会話をしていた私を変に思っているのだろうか。
「な、なんですか?」
「俺の勘違いだったら申し訳ないが、もしかしたらあなたの心の中には誰かがいるんじゃないか?」
「え? どうしてそれを……あれ?」
男性の言葉に、私は驚いた。竜の存在は、世間では知られていないものだったからだ。
しかしその理由はすぐにわかった。私も感じたからだ。彼の中に誰かがいるのを。
「ほう……まさか、お前と再会するとはな?」
「運命というものは数奇なものだな」
「この声は……」
「ああ、まさかあなたも竜を?」
「ええ……」
どうやら私達は、お互いに竜を宿しているようだ。
それに関しては、私も聞いたことがある。かつて竜は、二体に分かれたのだと。
その竜を宿した人が、私の前に現れた。それはすごいことだ。竜ももう一体の所在は知らないと言っていたし。
「……せっかくですから、少しお話しませんか?」
「む……」
「竜も積もる話があるでしょうし、私もあなたと色々と話してみたいことがあります」
「……なるほど、確かに俺もそうだ。それでは近くのカフェにでも行くとしようか」
「ええ、そうしましょう」
私は彼の言葉に、ゆっくりと頷いた。
同じ竜を宿しているからだろうか、私は彼とすごく話がしてみたかった。何故か妙に私は、彼に惹かれていたのである。
こうして、私は彼とともに歩き始めた。その数奇な巡り会いに、奇妙な縁を感じながら。
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③見に宿す→身に宿すでは?
一気読みが好きなので今更感があるでしょうが切ない始まりですね
感想とご指摘ありがとうございます。
ご指摘のカ所は修正させていただきます。
この作品で楽しんでいただけたら幸いです。