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18.心のどこかで
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「ナーゼル様がラフェリーナを私の世話に当てたのには、どういう意図があったのでしょうか?」
「意図という程大袈裟なものがあった訳ではない。ただお互いのためになると思っただけだ。あのメイドは底抜けに明るいが少々危なっかしい面がある。その明るい面はあなたを元気づけることができると思った。同時にあなたなら彼女を受け止めて成長させてくれると思った」
「なるほど……」
ナーゼル様の言う通り、私はラフェリーナの明るさに救われていた。彼女が来てくれてから、毎日が楽しくなったことは紛れもない事実だ。
そんな彼女に私が良い影響を与えられたかは正直わからない。ただ彼女はメイドとして確実に成長しているし、そう思ってもいいのだろう。
「……そういえば、ラフェリーナの言葉がきっかけでナーゼル様は私の元を訪ねて来るようになったのですよね?」
「……ああ、確かにそんなこともあったな。ああいう部分が、ラフェリーナの危ない部分といえるが」
「それはそうですね……でも、どうして急に私を訪ねて来るようになったんですか?」
そこで私は、とある疑問を覚えていた。
彼はラフェリーナの言葉があるまで、私をまったく訪ねていなかった。私を冷遇していたならともかく、想ってくれていたなら多少なりとも部屋を訪ねてくれてもいいものではないだろうか。
「もちろん、あのメイドの意図が読み取れたからという面もある。あれは明らかに、俺に怒っているような態度だったからな」
「あ、それは……」
「それに怒ったりはしていない。そもそもあれはもっともな怒りだ」
ナーゼル様は、ラフェリーナの言葉の裏にある意図を読み取っていたようだ。彼女は上手くやったと言っていたが、案外そうでもなかったらしい。
「えっと……そういう面もあるということは、他にも理由があったのですか?」
「ああ、まず前提として知ってもらいたいのは、俺があなたを訪ねなかったのには理由があるということだ」
「理由?」
「お互いの中にある竜が、共鳴する可能性があったのだ。簡単に言ってしまえば、暴走の危険性があった。故に俺はあなたに会うことを避けていたのだ」
「なるほど……それなら、どうして会えるようになったのですか?」
「俺の中の竜と折り合いがついたからだ。対話した結果、俺は俺の中の竜とは和解することができたのだ」
ナーゼル様の説明に、私は納得していた。
私の中にいた竜も、ナーゼル様の中にいる竜は対話の結果、国を襲わないという結論を出したと言っていた。どうやら彼は、自分の中にいる竜と上手くやっているようだ。
「私も、竜とはある程度話をすることができました。それはつまり、私達の間を隔てるものはないということを表していますよね?」
「……ああ、そういうことになるな」
「それなら……それなら私は、あなたの妻としての役目を果たしたいと思っています。それが私をずっと想ってくれていたあなたに対する恩返しですから」
「……ありがとう」
私の言葉に、ナーゼル様は笑顔でお礼を言ってくれた。
長い間、私達の間には隔たりがあった。それは今、完全に取り払われたのだ。
なんというか、心がとても軽い。これからは彼と笑い合えるのだという事実に、私は随分と心を躍らせてしまっているようだ。
「む……そろそろ限界のようだな?」
「……ええ、そうみたいですね」
ナーゼル様の言葉に、私はゆっくりと頷く。
今まで気付いていなかったが、私達がいる空間は歪んでいる。それはつまり、私と彼が目覚めようとしているということなのだろう。
「ナーゼル様……」
「む……」
そこで私は、ナーゼル様の手を握った。
彼は少し驚いた反応をしたが、すぐに受け入れてくれる。
「随分と遠回りになってしまったな……思い返してみると、もっといい方法があったように思えてしまう」
「いいえ、そんなことはありません。ナーゼル様は、最善を尽くしてくださいました」
「そう言ってもらえるのはありがたい限りだ」
ナーゼル様は、私の体をそっと抱きしめてくれた。
意識の中ではあるはずなのに、その体はとても温かい。できることなら、その温もりを現実でも感じたいものだ。
「前にあなたは、俺があなたを愛していないことを知っていると言ったな。あの時は訂正できなかったが、今その言葉を訂正しよう。俺はあなたを愛している」
「……心のどこかで、私はそれを期待していました。でもそれが裏切られるのが怖くて、あんなことを言ってしまったのだと思います」
「そう思わせるだけのことをしてきた……いや、今はそのような謝罪は不必要か」
「ええ……」
私はナーゼル様は、ゆっくりと唇を重ねた。
私は一体いつから、彼とこうしたいと思っていたのだろうか。今思い返してみると、私は心のどこかでずっと彼からの愛を求めていたような気がする。
そんなことを考えながら、私達は蕩けていくのだった。
「意図という程大袈裟なものがあった訳ではない。ただお互いのためになると思っただけだ。あのメイドは底抜けに明るいが少々危なっかしい面がある。その明るい面はあなたを元気づけることができると思った。同時にあなたなら彼女を受け止めて成長させてくれると思った」
「なるほど……」
ナーゼル様の言う通り、私はラフェリーナの明るさに救われていた。彼女が来てくれてから、毎日が楽しくなったことは紛れもない事実だ。
そんな彼女に私が良い影響を与えられたかは正直わからない。ただ彼女はメイドとして確実に成長しているし、そう思ってもいいのだろう。
「……そういえば、ラフェリーナの言葉がきっかけでナーゼル様は私の元を訪ねて来るようになったのですよね?」
「……ああ、確かにそんなこともあったな。ああいう部分が、ラフェリーナの危ない部分といえるが」
「それはそうですね……でも、どうして急に私を訪ねて来るようになったんですか?」
そこで私は、とある疑問を覚えていた。
彼はラフェリーナの言葉があるまで、私をまったく訪ねていなかった。私を冷遇していたならともかく、想ってくれていたなら多少なりとも部屋を訪ねてくれてもいいものではないだろうか。
「もちろん、あのメイドの意図が読み取れたからという面もある。あれは明らかに、俺に怒っているような態度だったからな」
「あ、それは……」
「それに怒ったりはしていない。そもそもあれはもっともな怒りだ」
ナーゼル様は、ラフェリーナの言葉の裏にある意図を読み取っていたようだ。彼女は上手くやったと言っていたが、案外そうでもなかったらしい。
「えっと……そういう面もあるということは、他にも理由があったのですか?」
「ああ、まず前提として知ってもらいたいのは、俺があなたを訪ねなかったのには理由があるということだ」
「理由?」
「お互いの中にある竜が、共鳴する可能性があったのだ。簡単に言ってしまえば、暴走の危険性があった。故に俺はあなたに会うことを避けていたのだ」
「なるほど……それなら、どうして会えるようになったのですか?」
「俺の中の竜と折り合いがついたからだ。対話した結果、俺は俺の中の竜とは和解することができたのだ」
ナーゼル様の説明に、私は納得していた。
私の中にいた竜も、ナーゼル様の中にいる竜は対話の結果、国を襲わないという結論を出したと言っていた。どうやら彼は、自分の中にいる竜と上手くやっているようだ。
「私も、竜とはある程度話をすることができました。それはつまり、私達の間を隔てるものはないということを表していますよね?」
「……ああ、そういうことになるな」
「それなら……それなら私は、あなたの妻としての役目を果たしたいと思っています。それが私をずっと想ってくれていたあなたに対する恩返しですから」
「……ありがとう」
私の言葉に、ナーゼル様は笑顔でお礼を言ってくれた。
長い間、私達の間には隔たりがあった。それは今、完全に取り払われたのだ。
なんというか、心がとても軽い。これからは彼と笑い合えるのだという事実に、私は随分と心を躍らせてしまっているようだ。
「む……そろそろ限界のようだな?」
「……ええ、そうみたいですね」
ナーゼル様の言葉に、私はゆっくりと頷く。
今まで気付いていなかったが、私達がいる空間は歪んでいる。それはつまり、私と彼が目覚めようとしているということなのだろう。
「ナーゼル様……」
「む……」
そこで私は、ナーゼル様の手を握った。
彼は少し驚いた反応をしたが、すぐに受け入れてくれる。
「随分と遠回りになってしまったな……思い返してみると、もっといい方法があったように思えてしまう」
「いいえ、そんなことはありません。ナーゼル様は、最善を尽くしてくださいました」
「そう言ってもらえるのはありがたい限りだ」
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意識の中ではあるはずなのに、その体はとても温かい。できることなら、その温もりを現実でも感じたいものだ。
「前にあなたは、俺があなたを愛していないことを知っていると言ったな。あの時は訂正できなかったが、今その言葉を訂正しよう。俺はあなたを愛している」
「……心のどこかで、私はそれを期待していました。でもそれが裏切られるのが怖くて、あんなことを言ってしまったのだと思います」
「そう思わせるだけのことをしてきた……いや、今はそのような謝罪は不必要か」
「ええ……」
私はナーゼル様は、ゆっくりと唇を重ねた。
私は一体いつから、彼とこうしたいと思っていたのだろうか。今思い返してみると、私は心のどこかでずっと彼からの愛を求めていたような気がする。
そんなことを考えながら、私達は蕩けていくのだった。
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