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9.明晰夢の中で
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夢を夢だと自覚することは時々にある。よくわからないが、これは夢だと確信できることはあるのだ。
しかしそういう時には大抵目が覚める。自覚した時点で、夢は終わってしまうのだ。そのまま続くのは、非常に稀である。
「これは夢、よね……」
私は今、その非常に稀な状態になっていた。何もない真っ白な空間に佇みながら、私はそれを夢だと理解したのである。
「頭痛はないわね」
眠る前にしていた頭痛は、まったくない。これはそれが治ったと解釈してもいいのだろうか。それともこれは、夢の中での特別仕様ということだろうか。
できれば前者であって欲しい。あの激しい頭痛がなくなるだけで、気分はとても良いので完治してもらいたいものである。
「それにしても、寂しい夢ね……」
私は周囲を見渡しながら、そのようなことを呟いた。
真っ白な何もない空間に一人というのは、なんだか不安である。このままこの夢が続くようなら困ってしまう。覚めるかせめて何か変化が起こって欲しい。
「……え?」
私がそんなことを思った瞬間、真っ白な空間に変化が起こった。私の目の前に、大きな黒い物体が現れたのだ。
その物体の表面は、鱗のようになっている。これは何か、生物の体ということなのだろうか。大きな魚が目の前に現れる。夢ならあり得る現象だ。
「まあ、夢ならなんでもあり得るのだろうけれど……」
私はゆっくりと手を伸ばして、目の前の巨体に触れてみた。
そのざらざらとした固い表面からは、生物の温もりを感じられる。
しかしそこで私はそれが奇妙なことであることに気付いた。これが大きな魚であるなら、この人間のような温もりは少々おかしいのではないだろうか。
「いや、夢だからおかしいも何もないのかしらね……」
私はとりあえず、その大きな生物の全貌を見ようと思って後退してみることにした。
わかっていたことではあるが、かなりの巨体である。少し下がっただけでは全貌が見えてこない。
「これは……」
何歩か下がったことによって、私はその生物がどのような体勢であるかを理解した。
どうやら生物は倒れているようだ。私に背中を向ける形で。
そしてその姿を、私は書物などで見たことがあった。この生物は竜である。かつて王国を襲った竜が、私の目の前にいたのだ。
「……これは本当に夢なのかしら?」
私の意識の深層で竜と対面する。その状況に、私は疑問を覚えていた。
これはもしかしたら夢ではないのかもしれない。私は深い睡眠の中で、私の中に宿っている竜と出会っているのではないだろうか。
「でもそうだとしたらなんというか……」
そんな予測をしてから改めて竜の姿を見て、私は少し困惑していた。
竜はまったく動かない。先程から微動だにしていないのである。
眠っているということなのかもしれないが、私はなんとなく竜が弱っているような気がした。その背中を向けた姿が、何故か憔悴しているように見えたのだ。
「こっちが頭よね……」
私はとりあえず、竜の頭側に回ってみることにした。状態を確認するためには、顔を見るくらいしか思いつかなかったのだ。
竜の顔を見て状態がわかるかどうかは微妙な所である。しかし、他にいい案も思い浮かばないので今はそうしてみるしかない。
「息は……しているのね」
竜の頭部まで近づいた私は、大きな呼吸音に少し驚いた。
体の大きさに比例して、その呼吸音も大きいということだろうか。鼻の前に立ったら吹き飛ばされそうな程の音に、私は少し尻込みしてしまう。
「……聞こえているのかしら?」
「うぐっ……」
「あっ……」
頭部の上くらいまで来た私の呟きに返答してきたのか、竜の唸り声が聞こえてきた。
その明らかに苦しんでいる声に、私は自身の予想が間違っていなかったことを理解する。やはりこの竜は、弱っているようだ。
しかしそういう時には大抵目が覚める。自覚した時点で、夢は終わってしまうのだ。そのまま続くのは、非常に稀である。
「これは夢、よね……」
私は今、その非常に稀な状態になっていた。何もない真っ白な空間に佇みながら、私はそれを夢だと理解したのである。
「頭痛はないわね」
眠る前にしていた頭痛は、まったくない。これはそれが治ったと解釈してもいいのだろうか。それともこれは、夢の中での特別仕様ということだろうか。
できれば前者であって欲しい。あの激しい頭痛がなくなるだけで、気分はとても良いので完治してもらいたいものである。
「それにしても、寂しい夢ね……」
私は周囲を見渡しながら、そのようなことを呟いた。
真っ白な何もない空間に一人というのは、なんだか不安である。このままこの夢が続くようなら困ってしまう。覚めるかせめて何か変化が起こって欲しい。
「……え?」
私がそんなことを思った瞬間、真っ白な空間に変化が起こった。私の目の前に、大きな黒い物体が現れたのだ。
その物体の表面は、鱗のようになっている。これは何か、生物の体ということなのだろうか。大きな魚が目の前に現れる。夢ならあり得る現象だ。
「まあ、夢ならなんでもあり得るのだろうけれど……」
私はゆっくりと手を伸ばして、目の前の巨体に触れてみた。
そのざらざらとした固い表面からは、生物の温もりを感じられる。
しかしそこで私はそれが奇妙なことであることに気付いた。これが大きな魚であるなら、この人間のような温もりは少々おかしいのではないだろうか。
「いや、夢だからおかしいも何もないのかしらね……」
私はとりあえず、その大きな生物の全貌を見ようと思って後退してみることにした。
わかっていたことではあるが、かなりの巨体である。少し下がっただけでは全貌が見えてこない。
「これは……」
何歩か下がったことによって、私はその生物がどのような体勢であるかを理解した。
どうやら生物は倒れているようだ。私に背中を向ける形で。
そしてその姿を、私は書物などで見たことがあった。この生物は竜である。かつて王国を襲った竜が、私の目の前にいたのだ。
「……これは本当に夢なのかしら?」
私の意識の深層で竜と対面する。その状況に、私は疑問を覚えていた。
これはもしかしたら夢ではないのかもしれない。私は深い睡眠の中で、私の中に宿っている竜と出会っているのではないだろうか。
「でもそうだとしたらなんというか……」
そんな予測をしてから改めて竜の姿を見て、私は少し困惑していた。
竜はまったく動かない。先程から微動だにしていないのである。
眠っているということなのかもしれないが、私はなんとなく竜が弱っているような気がした。その背中を向けた姿が、何故か憔悴しているように見えたのだ。
「こっちが頭よね……」
私はとりあえず、竜の頭側に回ってみることにした。状態を確認するためには、顔を見るくらいしか思いつかなかったのだ。
竜の顔を見て状態がわかるかどうかは微妙な所である。しかし、他にいい案も思い浮かばないので今はそうしてみるしかない。
「息は……しているのね」
竜の頭部まで近づいた私は、大きな呼吸音に少し驚いた。
体の大きさに比例して、その呼吸音も大きいということだろうか。鼻の前に立ったら吹き飛ばされそうな程の音に、私は少し尻込みしてしまう。
「……聞こえているのかしら?」
「うぐっ……」
「あっ……」
頭部の上くらいまで来た私の呟きに返答してきたのか、竜の唸り声が聞こえてきた。
その明らかに苦しんでいる声に、私は自身の予想が間違っていなかったことを理解する。やはりこの竜は、弱っているようだ。
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