殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗

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3.その身に宿りし竜

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「あなたはもちろん、私にとっても竜は伝説上の生き物みたいなものよね? 実際に見たことなんてないのだから」
「え、ええ……」
「でも事実として、竜はこの国を襲ったの。そして多くの命を奪った。当時の王妃様も、竜の被害者の一人よ」
「当時の王妃? それって……」
「ええ、ナーゼス様の実のお母様のことよ」

 私の身にナーゼス様のお母様の命を奪った竜が宿っている。その事実こそが、私と彼との間にある複雑な関係を作り出しているのだ。
 それは、私が生まれる前から始まっていた因縁である。私はその因縁に、ずっと振り回されてきたのだ。

「私の体に宿っている竜は暴走する可能性があるの」
「暴走?」
「ええ、竜が私の体から出てくるの。そうならないように抑えるのが、私の役目という訳よ」
「な、なるほど……」

 私の言葉に、ラフェリーナは少し後退った。竜が暴走するかもしれないとそう思ったのだろう。
 だが、それでも彼女はこの場に留まってくれている。それは少し嬉しかった。逃げ出す可能性もあったからだ。

「つまり私は危険な存在ということなの。だからここに閉じ込められている。ナーゼス様は、私を恐れているのでしょうね……」
「……でも仮に竜が暴走したら、この部屋に閉じ込めていた所で意味がないのではありませんか? 竜は巨大な生物であったと記憶していますが……」
「暴走といっても、色々とあるのよ。小規模の暴走ならこの部屋に閉じ込めておくことも意味はあると思うわ」
「そ、そうなんですか……」

 私の中にいる竜が暴走した経験は、今までの人生で何度かある。竜を抑え込め切れずにその力の一部が溢れ出す。あれは、とても嫌な感覚だ。
 竜の力は、一部だけでも強力である。しかし、それでも閉じ込めておくことに意味がない訳ではない。野放しにしておくよりは確実にマシだ。

「でもいくらなんでも軟禁はひどいんじゃありませんか? エリーファ様は何も悪くないのに閉じ込めておくなんて……」
「それだけ竜を危険視しているということでしょう」
「……というか、そもそも何故エリーファ様に竜が?」
「そこも、私とナーゼス様の関係を説明するにあたって重要な部分でしょうね」

 ラフェリーナは、質問を重ねてきた。彼女の中に、まだまだ納得できない部分が多いのだろう。
 当然、私も説明はしていくつもりだ。それはきっと、私の中に誰かに聞いてもらいたいという気持ちがあるからなのだろう。

「強大な力を持つ竜を滅ぼすことができないことを察した王国は、封印という方法を選ぶことにしたの。その封印に適しているのは子供……赤ちゃんだったのよ。それも女の子のね」
「そんな……女の子の赤ちゃんでなければ、ならなかったんですか?」
「……ひどい話だと思うわ。でも、それしか竜を鎮める方法はなかったの」

 竜は誰にでも封印できるという訳ではなかった。まだ精神が成熟していない赤ちゃんでなければ、封じ込めることができなかったそうだ。
 そして同時に、女の子が望ましかった。それは、封印の引継ぎに都合がいいからだ。
 私の身に宿っている竜は、私の子供に移されることになっている。その封印の移し替えは、子供を身に宿す母親から移し替えるのが一番簡単な方法であるそうだ。

「当然、そんなことを受け入れられる親は多くないわ。だから国王様は、とある条件を出したの」
「条件?」
「ええ、その女の子と第一王子の婚約を約束したのよ」
「そんなの赤ちゃんには関係ないじゃありませんか……」
「まあ、親に子供を差し出させるための条件ね……私の親はそれを受け入れたの」
「そんな……」

 私の両親の選択は、私にとってとても残酷なものだった。
 家の利益のために、私はこの身に竜を宿すことになったのである。その竜によって私が苦しめられることをわかっていながら、両親はそれを選んだのだ。
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