「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?

木山楽斗

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16.下らない提案

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「侯爵令息との婚約だ。あなたにとっても悪い話ではないだろう。侯爵夫人になれるのだからな」

 オーディス様は、私に対してその手をゆっくりと伸ばしてきた。
 下卑た笑みを浮かべたその表情も合わせて、その動きには言い知れぬものがある。
 ただ、彼が言っていることは滅茶苦茶だ。一体どうして、こんな風に婚約を申し込むことができるのか、私にはまったくわからない。

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい……なんて言われて、受け入れると思っているんですか?」
「何?」
「あなたという人は、満足に求婚することすらできないのですね。今改めてわかりました。あなたがリメルナの相手として、まったく持って相応しくないということが」

 オーディス様という人間は、ひどく矮小な人なのだろう。虚飾で自分を大きく見せなければならない程に、彼は小さな人間なのだ。
 それが今の言葉で、よくわかった。彼とリメルナとの間には、大きな差がある。二人は釣り合いが取れていない。
 私はこれでも、リメルナのことを評価している。彼女は優秀で、それでいて器も大きな人間だ。そんな二人が婚約者としてやっている訳はない。

「そもそも妹に相手にされなかった所か、あなたは告白すらもしていませんよね? 勇気がなかったんですか?」
「ぼ、僕を侮辱するのか!」
「私の妹を先に侮辱したのはあなたの方ですよ。私はあなたのことが許せません」

 元々許すつもりはなかったが、オーディス様のことが益々許せなくなっていた。
 彼という人間がこれ以上自由にしていることが、私にはとても許容できない。少なくとも、今回のように噂が広がることは、阻止したい所だ。

「ふん、結局の所、ロディオン子爵家の姉妹というものは、愚かな姉妹だったということか。この僕をここまで侮辱して、ただで済むと思わないことだな」
「オーディス侯爵令息、あなたは何か勘違いをしているようですね?」
「何?」
「あなたの味方なんて、誰もいませんよ。僕はあなたの行いを公表します。あなたの兄であるエルヴァス侯爵令息もこちらの味方です。あなたを擁護するような人はいませんよ。トレファー侯爵家の権力も使わせはしません」
「なっ……!」

 オーディス様に対して、ゼルート様は厳しい言葉をかけていた。
 それに彼は、視線を泳がせている。流石にまずいということを、悟ったのだろうか。
 彼という人間がここまで大きく出られるのは、トレファー侯爵家の権力があってのことだ。それが行使できないとしたらどうなるか、想像できない程に愚かという訳ではなかったようである。
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