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第9話 非力な実行犯

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「でも、どうして非力な実行犯だと?」
「今回の毒殺という方法ですが、とれる人はそう多くありません。貴族相手に毒を盛れる人など、限られています」
「そうですね……」

 そこでアドナス様は、そのようなことを言ってきた。
 確かに、貴族相手に毒を盛れる人物は限られてくる。
 しかし、それが非力な実行犯にどう繋がるのだろうか。そう思ったが、敢えて聞くべきではないだろう。アドナス様の話を聞いていればみえてくるはずだ。

「ですが、恐らく使用人の中に毒を持った人物はいないでしょう。流石に、そこに仕掛けるのは危険です」
「それは……そうでしょうね」

 アドナス様は、使用人の中に毒を持った人物はいないと考えていた。
 確かに、使用人にそのようなことを頼むのは危険だ。もしも、主人に知らせでもしたら、色々と大変である。流石に、そこには頼まないだろう。

「それなら、誰が毒を持ったか……そう考えると、一人適任の人物がいるのです」
「適任の人物?」
「ええ、被害者に近づけて、ケットラも信頼できる人物がいるのです」
「まさか……」

 アドナス様の言葉で、私はだんだんと理解してきた。
 被害者に近づけて、ケットラが信頼している人物。それに当てはまる人物が、一人思い浮かんできたのだ。

「ええ、僕はケットラの浮気相手が怪しいと思っています」
「ケットラの浮気相手……つまりは、被害者の婚約者ということですね?」
「はい。ケットラも信用していて、被害者にも簡単に近づけます。実行犯として、彼女はかなり怪しいでしょう」

 アドナス様の結論は、私が予想していたものと同じだった。
 ケットラの浮気相手が怪しい。それは、とても納得できる答えだ。
 彼女は、被害者の婚約者でもある。そのため、簡単に被害者に近づけただろう。しかも、ケットラも信頼している。かなり、適任な人物である。

「確かに、その可能性は高いですね……」
「ええ、だから、僕はその辺りから揺さぶっていきたいと思っているんです」
「揺さぶる、ですか?」
「ええ、色々と聞いてみようかと思っています」

 そこで、アドナス様は笑顔を見せた。
 それは、優しい笑顔であった。だが、底知れない何かを感じさせる笑顔でもある。
 なんというか、敵に回したくない笑顔だ。この笑顔で迫られると、少し怖い気もする。

「アドナス様、どうかよろしくお願いします」
「ええ、任せてください」

 ただ、そんなアドナス様が味方であるというのは心強かった。
 アドナス様なら、きっと大丈夫。そう感じさせてくれるのだ。
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