上 下
5 / 30

第5話 本心では

しおりを挟む
「……まさか、見抜かれているとは思いませんでした。やはり、ミルトナ様は鋭いですね」
「鋭い訳ではありません。アドナス様を見ていると、簡単にわかりましたよ」

 私の言葉に、アドナス様はかなり驚いていた。
 だが、アドナス様の本心を見抜けたのは、私が鋭いからではない。
 アドナス様の表情を見れば、大抵の人は理解できるだろう。明らかに、不本意にしているのだ。これでわからないなら、逆に鈍いだろう。

「そもそも、アドナス様がわざわざ言う必要もないでしょう? それをわざわざ言うのは、後ろめたさがあるからではないですか?」
「なるほど……考えてみれば、そうかもしれませんね」

 そもそも、アドナス様がわざわざ口に出した時点で、後ろめたさがあったことは明白だ。
 本当に何も思っていないなら、それを口に出さなかったはずである。

「あなたの言う通り、僕は父上達を説得するために、国同士の関係で優位に立てるということを言っておきました。それで、父上もやっと首を縦に振ってくれました」
「やはり、そういうことだったのですね」
「ええ、この件を明るみに出せば、キャベイド王国はとても厳しい立場に立たされます。そのために、僕は行動することを許されました。最も、調査をするのは密かにです。フォルベイン王国にばれたら、色々とまずいですから」

 どうやら、密かに調査して、キャベイド王国の弱みを見つけるのが、フォルベイン王国のやり方らしい。
 確かに、それならフォルベイン王国は特に不利益もない。精々、調べる労力がかかるくらいだ。

「でも、私がここに来たことは大丈夫なのですか? それはキャベイド王国に知られているでしょうし、色々と面倒なのでは?」
「その件については、問題ありません。既に、色々と工作は終わっています」
「工作……」

 そこで、私はそもそもここにいることはいいのかを聞いた。
 罪人の私が、他国の王城にいるというのは、中々問題あることだと思ったからだ。
 だが、それは問題ないらしい。既に工作しているようだ。
 どうやら、アドナス様は既に色々と行動しているようである。私を受け入れる時点で、準備はできているのだろう。

「さて、ミルトナ様、あなたには屋敷を一つ用意しています。しばらくは、そちらで過ごしてもらいます。少々不自由かもしれませんが、どうかご理解ください」
「い、いえ、何から何までありがとうごいます」

 アドナス様は、私に屋敷まで用意してくれていた。
 本当に、何から何までお世話になっている。本当に、アドナス様には感謝の気持ちでいっぱいだ。
 こうして、私はその屋敷に移動することになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

この家を潰す気かと婚約者に捨てられました、妹のように愛想が無い私は用済みだそうです。

coco
恋愛
事業が好調な彼の婚約者となった私。 でも私の態度が気に喰わない彼から、この家を潰す気かと婚約破棄されました。 そんな彼は、私と正反対の愛想がある妹を後釜に迎えたようで…?

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ご自分の病気が治ったら私は用無しですか…邪魔者となった私は、姿を消す事にします。

coco
恋愛
病気の婚約者の看病を、必死にしていた私。 ところが…病気が治った途端、彼は私を捨てた。 そして彼は、美しい愛人と結ばれるつもりだったが…?

私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです

もぐすけ
恋愛
 カトリーヌは王国有数の貴族であるアードレー侯爵家の長女で、十七歳で学園を卒業したあと、皇太子妃になる予定だった。  ところが、幼少時にアードレー家の跡継ぎだった兄を自分のせいで事故死させてしまってから、運命が暗転する。両親から疎まれ、妹と使用人から虐められる日々を過ごすことになったのだ。  十二歳で全寮制の学園に入ってからは勉学に集中できる生活を過ごせるようになるが、カトリーヌは兄を事故死させた自分を許すことが出来ず、時間を惜しんで自己研磨を続ける。王妃になって世のため人のために尽くすことが、兄への一番の償いと信じていたためだった。  しかし、妹のシャルロットと王国の皇太子の策略で、カトリーヌは王国の皇太子妃ではなく、戦争好きの野蛮人の国の皇太子妃として嫁がされてしまう。  だが、野蛮だと思われていた国は、実は合理性を追求して日進月歩する文明国で、そこの皇太子のヒューイは、頭脳明晰で行動力がある超美形の男子だった。  カトリーヌはヒューイと出会い、兄の呪縛から少しずつ解き放され、遂にはヒューイを深く愛するようになる。  一方、妹のシャルロットは王国の王妃になるが、思い描いていた生活とは異なり、王国もアードレー家も力を失って行く……

(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?

青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・ 心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。 ※ご注意 これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。 この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。

処理中です...