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 私は、エルクル様の元に来て、表情を作ることができた。
 その理由は、なんとなくわかっている。私が表情を作れるのは、エルクル様が隣にいてくれるからなのだ。

「私は、エルクル様のことを心から信頼しています。その信頼が……その信頼から来る安心感が、私の表情を取り戻させたのだと思います」
「安心感ですか?」

 彼が隣にいる安心感が、私の表情を形作っている。
 今は、はっきりとそれがわかった。私は、彼の隣でなら、自然体でいることができるのだ。

「ええ、前に、私は貴族社会に疲れたという話をしましたよね? その疲労によって、私は表情を失いました。そのことで、もっと疲れるようになってしまったのです」
「もっと疲れるように……そうですよね。表情がなくなってしまったから……」
「私は色々と言われるようになりました。それにより、さらに疲労して、私はどうすることもできなくなっていたのだと思います」

 私は、貴族社会に疲れて、表情を失った。
 表情を失った私は、色々なことを言われるようになった。そのことで、私の精神はさらにすり減ってしまったのだ。
 それにより、私はずっと表情を取り戻せなかった。目の前にいる彼に、出会うまでは。

「でも、エルクル様は私の表情を見抜いてくれました。私のことを不気味がることなく接してくれるあなたを、私は信頼して、その身を預けることができたのです」
「そうなのですか?」
「ええ、だから、私は安心することができました。きっと、私の疲れが癒えたのは、あなたの元で自然な自分でいられたからだと思います」

 私の疲れは、きっと今まで癒えていなかったのだ。
 その慢性的な疲れが原因で、私は表情を形作れなかった。その疲れは、彼との特訓の中で初めて癒えたのである。
 だから、あの時、私は笑えたのだ。今も、そうである。彼の目の前にいて、私は疲れていないから、表情を作れるのだ。

「……驚きましたね。まさか、僕の存在が、あなたの表情を取り戻すための鍵だったとは……」
「ええ、でも、それは当然のことだと思います。エルクル様程、私のことを思ってくれる人はいません。その思いが、私を癒してくれるものだということは、当たり前のことだと思います」
「そうですか……なんだか、嬉しいですね」

 エルクル様は、私の言葉に笑顔になってくれた。
 きっと、私も笑えているのではないだろうか。彼の前なら、きっとそのはずだ。
 こうして、私は自身の表情を取り戻す術を理解するのだった。
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