誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

５８．自由な未来へ

「……さて、実の所、僕はあなたに一つ提案があるのです」
「提案？　なんですか？」

　そこで、レリクス様はそのように切り出してきた。
　彼の表情は、いつもと少し違う。あのいつもの不敵な笑みではないのだ。

「……僕と婚約して欲しいのです」
「え？」

　レリクス様の口から出た言葉に、私は変な声をあげてしまった。
　それは、彼の言っていることの意味がわからなかったからだ。

「……レリクス様？　何を言っているんですか？」
「言葉通りの意味ですよ」
「言葉通り……いや、その意味がわからないんですけど」

　私は、少し混乱していた。
　どうして、彼は急にこんなことを言い出したのだろうか。

「前々から思っていたのです。あなたは素晴らしい人であると……悲惨な境遇であっても、優しさに溢れたあなたに、僕は惹かれているのです」
「え？　あ、その……」
「……すみません。急にこんなことを言われても、驚きますよね」

　レリクス様は、苦笑いを浮かべていた。
　まさか、彼がそのようなことを思っていたとは驚きである。正直、まったく知らなかった。今でも、信じられないくらいである。

「ふふっ……動揺しているようですね」
「それは、まあ……はい」
「落ち着いてくださいというのも変な話でしょうか？」
「それは……どうでしょうか？」

　動揺が増している私とは対照的に、レリクス様は段々と冷静になってきた。
　その表情が、いつも通りの涼しい笑みに変わっている。一番緊張することを言い終えたので、そんな感じなのだろうか。

「とりあえず、それが今の僕の気持ちです。ああ、公爵家だとか、王族だとか、そういうことは今は関係ありませんよ」
「は、はい……」

　混乱する中で、私は頭をなんとか働かせる。
　レリクス様の告白に、どう答えるべきか。必死に考えているのだ。

　私は、彼のことを多少意地悪な所もあるが優しい人だと知っている。
　そんな彼から思いを寄せられているというのは、素直に嬉しく思う。

　しかし、レリクス様はこう言っているが、私の立場や今後のことも考えなければならないことだろう。
　今の私の中途半端な立場で、王子の妻になってもいいものなのか。そもそも、それが微妙な所である。
　それに、もしもそうなれば本当の自由というものは手に入らないかもしれない。それも、私にとっては結構重要なことだ。

「まあ、僕としては答えをいつまでも待ちますよ。断れても、それはそれでいいと思っています。あなたは、自由を手に入れたのですから、その未来はあなた自身の選択で決めればいいと思いますよ」
「レリクス様……」

　レリクス様は、私に対してそう言って笑顔を浮かべた。
　それに私は思わず、笑顔を返してしまう。彼の言葉が納得できるものだったからだ。

　確かに、彼の言う通り、私の未来は自由なのである。
　未来を決められる選択肢があるということ自体が、今まででは考えられなかったことだ。
　自由気ままに生きていく。私は、本当にそんな境遇を手に入れられたようである。

「わかりました。それでは、好きなようにさせてもらいます」
「ええ……」

　これからのことは、ゆっくりと考えていくことにしよう。
　私はあのオルフェント公爵家と袂を分かつことができたのだ。最早心配するべきことは何もない。
　この自由な未来を、私は思うままに作っていくのだ。