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54.痣の所有者
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「ドグマードは、僕の行動を邪魔しようとしていました。それに僕は、なんとか抗おうとしました。ですが、完全にその支配から逃れることはできませんでした。時には彼に従い、時には抗い、そんなことの繰り返しでしたね……」
「大変だったんですね……」
「ええ、まあ……でも、本当に大変だったのは、お二人や龍の方々です。改めて、感謝します。ありがとうございます……僕を助けてくれて。それに、すみませんでした。色々と迷惑をかけてしまって……」
「気にしないでください」
「……ええ、我々は当然のことをしたまでです」
レリクス様は、私とセリティナに笑顔を向けてきた。
その笑みは、憑き物が落ちたかのように明るいものである。
いや、実際に憑き物は落ちたのだ。彼を縛りつけてきた悪しき王は、確かに滅ぼされたのである。
「……ところで、今レリクス様の体にはズグヴェルさんが宿っているんですよね?」
「え? ええ、そうですね……」
『ああ、我はここにいる』
「あっ……」
私の質問に、ズグヴェルさんの声が聞こえてきた。
いつも通り頭に響いてくるその声は、確かに彼の声である。
だが、ズグヴェルさんはもう私の体にいない。
レリクス様の体に移って、そのままなのである。
「えっと……大丈夫なんですか?」
「大丈夫? それは、どういうことですか?」
「いや、なんというか……元々、私の体に宿っていた訳ですし」
「……まあ、別に問題はありませんよ。ドグマードと違い、彼は変なことはしてきませんし……」
『当然だ。あんな奴と一緒にしてもらっては困る』
レリクス様は、このままズグヴェルさんを宿していても問題はないようだ。
それでいいなら、大丈夫なのだろう。なんというか、多少寂しいような気もするが。
「封印に関しては、移そうと思えば、いつでも移せますよ。それは左程難しいことではありませんから」
「エルファリナさんは、ズグヴェルさんに戻って来て欲しいですか?」
「えっと……まあ、戻って来てもらいたいという気持ちがない訳ではありませんが」
『むっ……』
私の言葉に、ズグヴェルさんは少し驚いているようだ。
実の所、私もそれは同じである。まさか自分が、こんな風に考えるとは思っていなかったのである。
あの呪われた痣は、私にとってとても嫌なものだった。それが今はこんな風に戻って来て欲しいと思うようになるなんて、人生というものは不思議なものである。
「わかりました。それなら、お返ししましょう。ズグヴェルさんもそれで構いませんか?」
『……まあ、いいだろう』
「ただ、少しだけ待っていただけませんか? もう少しこの痣を使ってやりたいことがあるのです」
「え?」
そこで、レリクス様は笑みを浮かべた。
それは、かつてと同じような笑みだ。つまり、何かを企んでいるということなのだろう。
「大変だったんですね……」
「ええ、まあ……でも、本当に大変だったのは、お二人や龍の方々です。改めて、感謝します。ありがとうございます……僕を助けてくれて。それに、すみませんでした。色々と迷惑をかけてしまって……」
「気にしないでください」
「……ええ、我々は当然のことをしたまでです」
レリクス様は、私とセリティナに笑顔を向けてきた。
その笑みは、憑き物が落ちたかのように明るいものである。
いや、実際に憑き物は落ちたのだ。彼を縛りつけてきた悪しき王は、確かに滅ぼされたのである。
「……ところで、今レリクス様の体にはズグヴェルさんが宿っているんですよね?」
「え? ええ、そうですね……」
『ああ、我はここにいる』
「あっ……」
私の質問に、ズグヴェルさんの声が聞こえてきた。
いつも通り頭に響いてくるその声は、確かに彼の声である。
だが、ズグヴェルさんはもう私の体にいない。
レリクス様の体に移って、そのままなのである。
「えっと……大丈夫なんですか?」
「大丈夫? それは、どういうことですか?」
「いや、なんというか……元々、私の体に宿っていた訳ですし」
「……まあ、別に問題はありませんよ。ドグマードと違い、彼は変なことはしてきませんし……」
『当然だ。あんな奴と一緒にしてもらっては困る』
レリクス様は、このままズグヴェルさんを宿していても問題はないようだ。
それでいいなら、大丈夫なのだろう。なんというか、多少寂しいような気もするが。
「封印に関しては、移そうと思えば、いつでも移せますよ。それは左程難しいことではありませんから」
「エルファリナさんは、ズグヴェルさんに戻って来て欲しいですか?」
「えっと……まあ、戻って来てもらいたいという気持ちがない訳ではありませんが」
『むっ……』
私の言葉に、ズグヴェルさんは少し驚いているようだ。
実の所、私もそれは同じである。まさか自分が、こんな風に考えるとは思っていなかったのである。
あの呪われた痣は、私にとってとても嫌なものだった。それが今はこんな風に戻って来て欲しいと思うようになるなんて、人生というものは不思議なものである。
「わかりました。それなら、お返ししましょう。ズグヴェルさんもそれで構いませんか?」
『……まあ、いいだろう』
「ただ、少しだけ待っていただけませんか? もう少しこの痣を使ってやりたいことがあるのです」
「え?」
そこで、レリクス様は笑みを浮かべた。
それは、かつてと同じような笑みだ。つまり、何かを企んでいるということなのだろう。
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