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53.蝕まれる精神

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 私とセリティナの体を借りたシェリウェントさんは、レリクス様を連れて保健室に来ていた。
 彼は、かなり疲労していた。そのため、休めるこの場所まで連れて来たのである。

「ふふ、なんとか終わりましたね……」

 ベッドの上で、彼はゆっくりとそう呟いた。
 それは、とても軽い感じの呟きだ。だが、何故か同時に感慨深そうに言っているようにも聞こえる。

 そこで、私は気付いた。
 よく考えてみれば、彼は生まれた時から悪しき王を体に宿していた。その長年の苦悩が、今の言葉には現れていたのかもしれない。

「……レリクス様、あなたは一体いつからあの悪しき王に?」
「いつ頃だったでしょうか……物心ついてすぐくらいだったと思います。彼が僕に囁いてきたんです」
「囁く……」
「暗示とでもいうのでしょうか? 僕の精神は、段々と彼に支配されるようになっていきました。時々、自分でもどうしてそんなことをしたのかわからないようなそんな行動をするようになっていたのです」

 レリクス様は、少し暗い表情をしながらそう語った。
 頭の中にいる存在から、ずっと囁かれる。それは、とても苦しいことだろう。

「自分という存在が、段々とわからなくなってきました。今思い返してみると、それはとても恐ろしいことだったと思います」
「……それは、そうですよね」

 私は、ズグヴェルさんがレリクス様の首を絞めた時のことを思い出す。
 あの後の彼は、どこかおかしい反応をしていた。私やズグヴェルさんのことを怖がらずに話しかけてくる。それは、どこか違和感がある反応だった。

 もしかしたらそれは、彼が自分という存在に無頓着だったからなのかもしれない。
 その精神を悪しき王に汚染された弊害。そういうことだったのではないだろうか。

「そんな風に空虚な人生を過ごす中で、僕はあなた達と出会ったのです」
「私達……ですか?」
「ええ、一目見てわかりました。というよりも、ドグマードが教えてきたというべきでしょうか? あなた達には龍が宿っている。その事実に、彼はかなり恐れを抱いていたようですから……」
「そうだったんですね……」

 レリクス様は、最初から私達の事情を知っていたようである。
 初めて会った時助けてくれたのも、それがわかっていたからなのかもしれない。

「彼の話を聞いた時、光明が見えたと思いました。もしかしたら、この体に宿るものを排除できるかもしれない。そう考えたのです」
「……それは」
「そこで、僕はあなた達を引き合わせることにしました。まあ、そこからは悪しき王との精神での戦いでしたね」

 レリクス様はずっと悪しき王を倒すために行動していたようである。
 私とセリティナを引き合わせたのも、私の正体を暴こうとしたのも、全てはそのためだったということなのだろう。
 その結果、彼はこうして呪縛から解き放たれた。それは、幸いなことである。
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