53 / 58
53.蝕まれる精神
しおりを挟む
私とセリティナの体を借りたシェリウェントさんは、レリクス様を連れて保健室に来ていた。
彼は、かなり疲労していた。そのため、休めるこの場所まで連れて来たのである。
「ふふ、なんとか終わりましたね……」
ベッドの上で、彼はゆっくりとそう呟いた。
それは、とても軽い感じの呟きだ。だが、何故か同時に感慨深そうに言っているようにも聞こえる。
そこで、私は気付いた。
よく考えてみれば、彼は生まれた時から悪しき王を体に宿していた。その長年の苦悩が、今の言葉には現れていたのかもしれない。
「……レリクス様、あなたは一体いつからあの悪しき王に?」
「いつ頃だったでしょうか……物心ついてすぐくらいだったと思います。彼が僕に囁いてきたんです」
「囁く……」
「暗示とでもいうのでしょうか? 僕の精神は、段々と彼に支配されるようになっていきました。時々、自分でもどうしてそんなことをしたのかわからないようなそんな行動をするようになっていたのです」
レリクス様は、少し暗い表情をしながらそう語った。
頭の中にいる存在から、ずっと囁かれる。それは、とても苦しいことだろう。
「自分という存在が、段々とわからなくなってきました。今思い返してみると、それはとても恐ろしいことだったと思います」
「……それは、そうですよね」
私は、ズグヴェルさんがレリクス様の首を絞めた時のことを思い出す。
あの後の彼は、どこかおかしい反応をしていた。私やズグヴェルさんのことを怖がらずに話しかけてくる。それは、どこか違和感がある反応だった。
もしかしたらそれは、彼が自分という存在に無頓着だったからなのかもしれない。
その精神を悪しき王に汚染された弊害。そういうことだったのではないだろうか。
「そんな風に空虚な人生を過ごす中で、僕はあなた達と出会ったのです」
「私達……ですか?」
「ええ、一目見てわかりました。というよりも、ドグマードが教えてきたというべきでしょうか? あなた達には龍が宿っている。その事実に、彼はかなり恐れを抱いていたようですから……」
「そうだったんですね……」
レリクス様は、最初から私達の事情を知っていたようである。
初めて会った時助けてくれたのも、それがわかっていたからなのかもしれない。
「彼の話を聞いた時、光明が見えたと思いました。もしかしたら、この体に宿るものを排除できるかもしれない。そう考えたのです」
「……それは」
「そこで、僕はあなた達を引き合わせることにしました。まあ、そこからは悪しき王との精神での戦いでしたね」
レリクス様はずっと悪しき王を倒すために行動していたようである。
私とセリティナを引き合わせたのも、私の正体を暴こうとしたのも、全てはそのためだったということなのだろう。
その結果、彼はこうして呪縛から解き放たれた。それは、幸いなことである。
彼は、かなり疲労していた。そのため、休めるこの場所まで連れて来たのである。
「ふふ、なんとか終わりましたね……」
ベッドの上で、彼はゆっくりとそう呟いた。
それは、とても軽い感じの呟きだ。だが、何故か同時に感慨深そうに言っているようにも聞こえる。
そこで、私は気付いた。
よく考えてみれば、彼は生まれた時から悪しき王を体に宿していた。その長年の苦悩が、今の言葉には現れていたのかもしれない。
「……レリクス様、あなたは一体いつからあの悪しき王に?」
「いつ頃だったでしょうか……物心ついてすぐくらいだったと思います。彼が僕に囁いてきたんです」
「囁く……」
「暗示とでもいうのでしょうか? 僕の精神は、段々と彼に支配されるようになっていきました。時々、自分でもどうしてそんなことをしたのかわからないようなそんな行動をするようになっていたのです」
レリクス様は、少し暗い表情をしながらそう語った。
頭の中にいる存在から、ずっと囁かれる。それは、とても苦しいことだろう。
「自分という存在が、段々とわからなくなってきました。今思い返してみると、それはとても恐ろしいことだったと思います」
「……それは、そうですよね」
私は、ズグヴェルさんがレリクス様の首を絞めた時のことを思い出す。
あの後の彼は、どこかおかしい反応をしていた。私やズグヴェルさんのことを怖がらずに話しかけてくる。それは、どこか違和感がある反応だった。
もしかしたらそれは、彼が自分という存在に無頓着だったからなのかもしれない。
その精神を悪しき王に汚染された弊害。そういうことだったのではないだろうか。
「そんな風に空虚な人生を過ごす中で、僕はあなた達と出会ったのです」
「私達……ですか?」
「ええ、一目見てわかりました。というよりも、ドグマードが教えてきたというべきでしょうか? あなた達には龍が宿っている。その事実に、彼はかなり恐れを抱いていたようですから……」
「そうだったんですね……」
レリクス様は、最初から私達の事情を知っていたようである。
初めて会った時助けてくれたのも、それがわかっていたからなのかもしれない。
「彼の話を聞いた時、光明が見えたと思いました。もしかしたら、この体に宿るものを排除できるかもしれない。そう考えたのです」
「……それは」
「そこで、僕はあなた達を引き合わせることにしました。まあ、そこからは悪しき王との精神での戦いでしたね」
レリクス様はずっと悪しき王を倒すために行動していたようである。
私とセリティナを引き合わせたのも、私の正体を暴こうとしたのも、全てはそのためだったということなのだろう。
その結果、彼はこうして呪縛から解き放たれた。それは、幸いなことである。
14
お気に入りに追加
1,842
あなたにおすすめの小説
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?
ラララキヲ
恋愛
乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。
学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。
でも、ねぇ……?
何故それをわたくしが待たなきゃいけないの?
※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。
◇テンプレ乙女ゲームモノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
貴族としては欠陥品悪役令嬢はその世界が乙女ゲームの世界だと気づいていない
白雲八鈴
恋愛
(ショートショートから一話目も含め、加筆しております)
「ヴィネーラエリス・ザッフィーロ公爵令嬢!貴様との婚約は破棄とする!」
私の名前が呼ばれ婚約破棄を言い渡されました。
····あの?そもそもキラキラ王子の婚約者は私ではありませんわ。
しかし、キラキラ王子の後ろに隠れてるピンクの髪の少女は、目が痛くなるほどショッキングピンクですわね。
もしかして、なんたら男爵令嬢と言うのはその少女の事を言っています?私、会ったこともない人のことを言われても困りますわ。
*n番煎じの悪役令嬢モノです?
*誤字脱字はいつもどおりです。見直してはいるものの、すみません。
*不快感を感じられた読者様はそのまま閉じていただくことをお勧めします。
加筆によりR15指定をさせていただきます。
*2022/06/07.大幅に加筆しました。
一話目も加筆をしております。
ですので、一話の文字数がまばらにになっております。
*小説家になろう様で
2022/06/01日間総合13位、日間恋愛異世界転生1位の評価をいただきました。色々あり、その経緯で大幅加筆になっております。
転生不憫令嬢は自重しない~愛を知らない令嬢の異世界生活
リョンコ
恋愛
シュタイザー侯爵家の長女『ストロベリー・ディ・シュタイザー』の人生は幼少期から波乱万丈であった。
銀髪&碧眼色の父、金髪&翠眼色の母、両親の色彩を受け継いだ、金髪&碧眼色の実兄。
そんな侯爵家に産まれた待望の長女は、ミルキーピンクの髪の毛にパープルゴールドの眼。
両親どちらにもない色彩だった為、母は不貞を疑われるのを恐れ、産まれたばかりの娘を敷地内の旧侯爵邸へ隔離し、下働きメイドの娘(ハニーブロンドヘア&ヘーゼルアイ)を実娘として育てる事にした。
一方、本当の実娘『ストロベリー』は、産まれたばかりなのに泣きもせず、暴れたりもせず、無表情で一点を見詰めたまま微動だにしなかった……。
そんな赤ん坊の胸中は(クッソババアだな。あれが実母とかやばくね?パパンは何処よ?家庭を顧みないダメ親父か?ヘイゴッド、転生先が悪魔の住処ってこれ如何に?私に恨みでもあるんですか!?)だった。
そして泣きもせず、暴れたりもせず、ずっと無表情だった『ストロベリー』の第一声は、「おぎゃー」でも「うにゃー」でもなく、「くっそはりゃへった……」だった。
その声は、空が茜色に染まってきた頃に薄暗い部屋の中で静かに木霊した……。
※この小説は剣と魔法の世界&乙女ゲームを模した世界なので、バトル有り恋愛有りのファンタジー小説になります。
※ギリギリR15を攻めます。
※残酷描写有りなので苦手な方は注意して下さい。
※主人公は気が強く喧嘩っ早いし口が悪いです。
※色々な加護持ちだけど、平凡なチートです。
※他転生者も登場します。
※毎日1話ずつ更新する予定です。ゆるゆると進みます。
皆様のお気に入り登録やエールをお待ちしております。
※なろう小説でも掲載しています☆
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ
春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。
エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!?
この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて…
しかも婚約を破棄されて毒殺?
わたくし、そんな未来はご免ですわ!
取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。
__________
※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。
読んでくださった皆様のお陰です!
本当にありがとうございました。
※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。
とても励みになっています!
※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる