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48.彼の提案
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私は、レリクス様とともに相談室に来ていた。
彼に、オルフェント公爵家から届いた手紙のことについて話すためである。
「なるほど……それは、ひどいものですね」
手紙の内容を伝えると、レリクス様はそのように感想を呟いた。
それは、教室でした反応と概ね変わっていない。やはり、それが本心からの言葉なのかどうか、わからないのである。
「あなたは、オルフェント公爵家で冷遇されていた。それなのに、今更手の平を返すなんて、なんとも許せませんね」
「ええ、そうなんです……」
「……堂々とその要求を突っぱねるべきでしょう。公爵家の好きにさせるべきではありません」
「はい、それは私もそう思っています」
私は、レリクス様の言葉にゆっくりと頷いた。
当然のことながら、この手紙の内容通りに公爵家に受け入れてもらおうなどとは思っていない。
今までされてきたその扱いが、そんな判断をしたくないと思わせてくれるのだ。
だが、仮にこの要求を切り捨てたとして、その後どうなるのだろうか。
結局の所、私はオルフェント公爵家の一員である。そう簡単に公爵家から逃れられる訳はない。逃げても捕まるだろう。
以前の境遇のままなら、逃げ出したら追いかけて来なかったかもしれない。
だが、今は聖痕を宿していると認識されている。その利用価値から考えて、オルフェント公爵家は私を逃がさないはずだ。
「教室でも言った通り、その件について、一つ提案があるのです」
「はい、なんですか?」
「オルフェント公爵家から抜け出しませんか?」
「え?」
レリクス様の提案の意味が、私にはよくわからなかった。
公爵家から抜け出す。それは、私も望む所だ。
だが、それは簡単なことではない。抜け出したいから抜け出す。構図がそんなに簡単なら、私はこんなに悩んでいない。
「レリクス様、その提案はどういうことですか?」
「おっと……言葉が足りませんでしたね」
「ええ……」
私の言葉に対して、レリクス様はいつも通りの笑顔を浮かべた。
恐らく、わざとわかりにくい言い方をしたのだろう。彼がそういう人間であるということには慣れてきたので、それはそこまで気にすることではない。
「まあ、実際の問題として、オルフェント公爵家から抜け出すのは簡単ではないでしょうね」
「はい、そう思っています」
「でも、僕の力を使えば、それも可能かもしれません」
「レリクス様の力?」
「ええ、王家の力を使うのです」
「それは……」
レリクス様が何を言っているのか、私にはまだよくわからなかった。
彼は、一体何を考えているのだろうか。もう何度目になるも覚えていないそんな疑問に、私は首を傾げるのだった。
彼に、オルフェント公爵家から届いた手紙のことについて話すためである。
「なるほど……それは、ひどいものですね」
手紙の内容を伝えると、レリクス様はそのように感想を呟いた。
それは、教室でした反応と概ね変わっていない。やはり、それが本心からの言葉なのかどうか、わからないのである。
「あなたは、オルフェント公爵家で冷遇されていた。それなのに、今更手の平を返すなんて、なんとも許せませんね」
「ええ、そうなんです……」
「……堂々とその要求を突っぱねるべきでしょう。公爵家の好きにさせるべきではありません」
「はい、それは私もそう思っています」
私は、レリクス様の言葉にゆっくりと頷いた。
当然のことながら、この手紙の内容通りに公爵家に受け入れてもらおうなどとは思っていない。
今までされてきたその扱いが、そんな判断をしたくないと思わせてくれるのだ。
だが、仮にこの要求を切り捨てたとして、その後どうなるのだろうか。
結局の所、私はオルフェント公爵家の一員である。そう簡単に公爵家から逃れられる訳はない。逃げても捕まるだろう。
以前の境遇のままなら、逃げ出したら追いかけて来なかったかもしれない。
だが、今は聖痕を宿していると認識されている。その利用価値から考えて、オルフェント公爵家は私を逃がさないはずだ。
「教室でも言った通り、その件について、一つ提案があるのです」
「はい、なんですか?」
「オルフェント公爵家から抜け出しませんか?」
「え?」
レリクス様の提案の意味が、私にはよくわからなかった。
公爵家から抜け出す。それは、私も望む所だ。
だが、それは簡単なことではない。抜け出したいから抜け出す。構図がそんなに簡単なら、私はこんなに悩んでいない。
「レリクス様、その提案はどういうことですか?」
「おっと……言葉が足りませんでしたね」
「ええ……」
私の言葉に対して、レリクス様はいつも通りの笑顔を浮かべた。
恐らく、わざとわかりにくい言い方をしたのだろう。彼がそういう人間であるということには慣れてきたので、それはそこまで気にすることではない。
「まあ、実際の問題として、オルフェント公爵家から抜け出すのは簡単ではないでしょうね」
「はい、そう思っています」
「でも、僕の力を使えば、それも可能かもしれません」
「レリクス様の力?」
「ええ、王家の力を使うのです」
「それは……」
レリクス様が何を言っているのか、私にはまだよくわからなかった。
彼は、一体何を考えているのだろうか。もう何度目になるも覚えていないそんな疑問に、私は首を傾げるのだった。
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