誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

２０．差がある発言

「……そこにいるのは、エルファリナか？」
「げ？」

　私がセリティナと話していると、とある男性の声が聞こえてきた。
　その声には、聞き覚えがある。私は、ゆっくりとそちらの方向を向く。

「アルクルド様……こんにちは」
「……わかっていたことだが、君もこの学園に入学していたか。できることなら、顔を合わせたくなかった所なんだがな」

　アルクルド様は、私にそんなことを言ってきた。
　それは、こちらの台詞である。私も、できることなら彼と顔を合わせたくなかった。

　ゲームをやっていた前世の時は、彼に対しては好印象を抱いていた。
　セリティナ視点で見ていると、彼の欠点がそこまで見えていなかったからだ。

　だが、エルファリナになってから、彼の印象は変わった。
　とても厄介な存在だと思うようになったのだ。

　悪い人ではないことはわかっている。
　ただ、バルキネス公爵家の誇りを大切する彼は、私を邪険に扱う。
　そんな彼に対して、好印象など抱けるわけがない。悪印象を抱いてしまうのだ。

「おっと、そちらは……」

　そこで、アルクルド様は目を丸くして驚いていた。
　彼の視線の先には、セリティナがいる。彼女の顔を見て、彼は驚いているようだ。

「あなたは、聖痕の少女セリティナさんですね？」
「え？　えっと……私は、セリティナですけど」
「こんな所で会えるとは、光栄です。あなたの噂は、常々聞いていますよ」
「そ、そうですか……」

　アルクルド様は、目を輝かせていた。
　彼は、セリティナに憧れている。聖痕を宿しており、選ばれし者と呼ばれている彼女に敬意を抱いているのだ。
　そのため、こんな態度なのだろう。

　ただ、その態度にセリティナは少し引いている。
　それは、ゲームと同じ反応だ。流石に、初対面でこんな態度をされたら、そういう反応にもなるだろう。

「あなたとは、これからもいい関係を築いていきたいと思っています。どうか、これからよろしくお願いします」
「は、はい……」
「それでは、僕はこれで失礼します」

　アルクルド様は、それだけ言って去って行った。
　その姿を見ながら、セリティナはため息を吐く。

「……なんだか、少し嫌な感じの人ですね？」
「え？」

　セリティナの言葉に、私は驚いた。
　その発言は、ゲームと少し違ったからだ。

　ゲームでは、確か不思議な人だと言っていたはずである。
　それが嫌な感じの人だと言った。結構、差がある発言だ。

「人によって態度を変えるのは、仕方ないことかもしれません。でも、エルファリナ様にはひどい態度を取っていたのに、私にはあんな風に対応するなんて……なんというか、嫌なんです」
「……そうですか」

　セリティナは、私に対するアルクルド様の態度を見て、そう言ったらしい。
　確かに、それは納得できる。端から見て、先程の彼は嫌な感じだっただろう。

　ただ、ゲームでも彼はエルファリナにはあんな態度だった。
　しかし、その態度を見ても、セリティナは特に失望したりしなかったはずである。

　そこまで考えて、私は理解した。よく考えてみれば、ゲームではセリティナはエルファリナに虐められていたのだと。
　そんな相手を邪険に扱っていると聞いた所で、なんとも思わないだろう。だが、今の私はそんな人間ではないから、その受け取り方が変わったようだ。