誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

６．声をかけられて

「……大丈夫ですか？」
「……え？」

　セリティナのことで悩んでいる私は、急に聞こえてきた声に驚いた。
　ゆっくりと後ろを向くと、一人の美しい男性が心配そうに私を見ている。

　その人物のことを私は知っていた。
　こちらの世界でも見たことはあるし、以前いた世界でも見たことがある人だったのだ。

「レリクス王子……」
「あなたは、オルフェント公爵家のエルファリナさんですよね……なんだか、先程から顔色が悪いようですけど、大丈夫ですか？」

　私の目の前にいるのは、レリクス・ロフェンズ第三王子である。
　彼は、ゲームの攻略対象の一人だ。
　紳士的で、非常に優しい。それが、彼のキャラクター紹介である。

　ただ、それは表面上のレリクス王子の説明だ。
　彼の内面は、もっと複雑である。要するに彼は、猫を被っている人物なのだ。

「……そうですね。入学式ということで、少し緊張しているのかもしれません」
「なるほど……」

　質問に対する私の答えに、レリクス様は笑顔を浮かべていた。
　その笑顔が作り笑いだと私は知っている。だが、別に彼は悪い人という訳ではない。
　本性は少し黒い部分もあるが、それでも優しい人ではあるのだ。恐らく、今回も私のことを心配しているというのは本当なのだろう。

「入学式までは、まだ少し時間があります。もし体調が優れないようなら、保健室に連れて行きますよ。式はまだですが、もう入学している訳ですし、利用しても問題はないはずです」
「いえ、大丈夫です。流石に、そこまでしてもらう程、緊張している訳ではありませんから」
「……それなら、あちらのベンチで休みましょうか。座るだけでも、楽になるものですよ？」
「……そうですね。そうさせてもらいます」

　私は、レリクス様の提案に乗ることにした。
　保健室に行くほどではないが、確かに少し休みたい気分だ。

　校舎の周りには、噴水がある。それを囲むようにベンチもあるのだ。
　そこなら涼しいだろうし、先程の熱を冷ますのに丁度いいかもしれない。

「歩けますか？」
「はい、大丈夫です」

　レリクス様とともに、私はベンチに歩いていく。
　私にとことん付き合ってくれる彼は、本当に優しい。
　彼の本性は知っている。しかし、それでも根は優しいだ。私は、改めてそれを実感していた。

「さて、ゆっくりと座ってくださいね。急に動くと体に悪いですから」
「はい、ありがとうございます」

　笑顔のレリクス様の指示に従い、私はベンチにゆっくりと腰を下ろしていく。
　本当に、座るだけでも気分が楽になる。先程の出来事で、私は思っていたよりも疲労していたようだ。