誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
3 / 58

3.因縁の婚約

しおりを挟む
 婚約者がいるとお父様から告げられたのは、私が十二歳の時のことだった。
 お父様は、下卑な笑みを浮かべながら、私の婚約者について語っていた。その醜悪な笑みは、今でもよく覚えている。

『呪われたお前が、バルキネス公爵家を不幸にしてくれることを願っているぞ?』

 私が嫁ぐことになったのは、オルフェント公爵家の怨敵であるバルキネス公爵家だ。
 お父様は、呪われている私が嫁ぐことで、あちらの家に不幸が起きると思い、今回の婚約を決めたらしい。

『お前のような厄介者を有効に使ってやるのだ。感謝しろ』

 お父様に言われた言葉は、私の胸に突き刺さっていた。
 自らの子供に対して、どうしてそのようなことが言えるのだろうか。私には、それがまったく理解できなかった。

 前世において、私は温かい家庭で育った。
 あちらの世界の家族にも欠点がなかった訳ではないが、この家族を体験した今は、彼らの元で生まれ育ったことがどれだけ幸せなことだったかを改めて実感する。

「君がエルファリナか?」
「ええ……」
「……僕の名前は、アルクルド・バルキネスだ。君の婚約者、ということになる」

 そんなお父様が決めた婚約者も、少し問題がある人物だった。
 初めて会った時に、それはすぐに理解できた。なぜなら、目の前の少年が私に明らかな敵意を向けていたからである。

 それは、なんとなくわかっていたことではあった。
アルクルドという人物は乙女ゲームの登場人物であり、主人公と恋人関係になる攻略対象の一人である。
 そんな彼の設定も、エルファリナとの関係も、彼のルートをクリアした私は知っているのだ。

「父上は、長きに渡る因縁を終わらせて、新たなる時代に進まなければならないと言っていたが、僕はそうは思わない」
「……」
「君達オルフェント公爵家を僕は許す気になれない。君には悪いが、この因縁を解消するなんてとてもできそうにない」

 初対面で、彼はそんなことを言ってきた。
 先祖の因縁、正直言って私はそんなことはどうでもよかった。
 だが、彼にとってそれは何よりも気になることだったらしい。

「君と仲良くしようとは思っていない。それを君には把握しておいて欲しい」
「はい……」

 彼は、私に淡々とそう言い切った。
 仲良くするつもりはない。そんな言葉を受けて、私は思っていた。わかっていたことではあるが、本当にエルファリナに味方はいなかったのだと。

 彼女及び私は、家族からも婚約者からも疎まれる存在なのである。
 孤立無援、それが私達の立場なのだろう。

 それを理解して、私は思わず笑みを浮かべていた。
 もう笑うしかない。ここまで追い詰められる環境とは、なんと悲惨なものだろうか。

 しかし、それで歪んでいい訳ではない。
 そうなってしまえば、待っているのは破滅だけだ。

 私は、耐え抜かなければならない。この苦しい環境を。
 希望はある。いずれ、私は魔法学園に入学するはずだ。
 そうなれば、ある程度の自由が手に入る。そこからなら、あらゆることが始められるだろう。

 それまでは、我慢する日々を送るのだ。
 心を強く持ち、耐え抜く。私はそれを誓うのだった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...