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11.意外な訪問者

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 私とお兄様は、目の前にいる人物に驚き、顔を見合わせていた。
 その人物は、私達に対して苦笑いを浮かべている。彼としても、この状況は想定していたものではないということなのだろう。

「えっと、イルヴァド様、どうしてこちらに?」
「色々とお話ししたいことがあったからです。しかし、驚きました。まさか、ルルメリーナ嬢と入れ違いになっているとは……」

 私達の目の前にいるのは、イルヴァド・ウェディバー伯爵令息。ウェディバー伯爵家の次男である。
 彼の来訪、それは私達にとって思ってもいなかったことだ。状況からして、それはウェディバー伯爵家の意向という訳でもないだろう。特にアポもなかったし、これは彼が自らの意思で無礼も承知で訪ねて来たと考えるべきだ。

「話したいことか。それはウェディバー伯爵家としてのことではないと、解釈しても良いのだな?」
「ええ、これは僕の個人的な訪問です。しかし、ウェディバー伯爵家に関して無関係のものという訳でもありません。ですから、まず謝罪をしたいのです。兄と母が、リフェリナ嬢にとても失礼なことを言ってしまって、申し訳ありませんでした」

 イルヴァド様は、私達に対して深く頭を下げてきた。
 前ウェディバー伯爵と交流していた故に、彼のことも知らないという訳ではない。
 ただこうして改めて話してみると、とてもまともな感性をしていることがわかる。少なくとも、アデルバ様やカルメア様と違って、彼とは話し合いというものができそうだ。

「無礼なことを無礼だとわかるだけで好感が持てるなどおかしな話ではあるが、あなたは一応礼儀というものを知っているらしいな」
「お兄様、そういう言い方は……」
「いいえ、構いません。兄や母が愚か者であるということは、僕が一番わかっていますから。それを理解しているからこそ、ラヴェルグ様も僕にそう言ったのでしょう」

 お兄様の少し無礼な発言も、イルヴァド様は聞き流していた。
 その穏やかで紳士的な振る舞いは、まるで前ウェディバー伯爵であるオルデン様のようだ。
 容姿的にも、彼にはオルデン様の面影がある。アデルバ様は母親似であるため、それぞれが母親と父親から、性格も含めて受け継いでいるということだろうか。

「……俺の推測でしかないが、あなたは何かしらの野望を抱いているように見える。今回はそれ関連で、ここを訪ねて来たということだろうか?」
「流石ですね、ラヴェルグ様。その通りです」
「その目的は?」
「ウェディバー伯爵家を、手に入れたいと思っています」

 お兄様の言葉に対して、イルヴァド様は淡々と言葉を返した。
 ただ、その内容は驚くべきものだ。ウェディバー伯爵家を手に入れる。それはとても、大それた野望であると思ってしまう。
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