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8.必死の訴え(モブ視点)

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 ルルメリーナの訪問を、アデルバは喜んでいた。
 そんな彼に対して、使用人であるノルードは目を細める。それは、同じく使用人であり彼の双子の姉でもあるネセリアも同じだった。

 幼い頃からラスタリア伯爵家に仕えていた二人は、ルルメリーナのことをよく知っている。
 この場において、彼女が何か滅多なことを口走るのではないか。二人はそれが気掛かりで仕方なかったのである。

「ルルメリーナ、君を歓迎しよう。やはり君は美しいな」
「そうですかぁ? それは、ありがとうございます」

 アデルバが褒め称える言葉を口にしたことで、ルルメリーナは笑顔を浮かべていた。
 基本的にルルメリーナは、褒められるのが好きだ。そうやって褒められている内は、特に機嫌を損ねることもない。
 それなら恐らく、余計なことも言わないはずだ。そう思ったノルードは、安心してため息をつく。

「まあ、君とは知らない仲という訳でもないが、これからよろしく頼む」
「えー、私、アデルバ様のことなんて全然知りませんよぉ?」
「うん?」

 安心したのも束の間、ノルードはルルメリーナの発言に焦ることになった。
 こういった時には、調子の良いことを言って適当に乗っかっていればいいのだが、ルルメリーナは決してそういうことができないのである。
 思ったことをすぐに口にする。そんな彼女の性質を思い出したノルードは、自分やネセリアが何をするべきなのか、改めて思い出すことになった。

「ルルメリーナ様は、アデルバ様のことをもっと知りたいとおっしゃっています」
「ああ、なるほど、そういうことだったか」
「え? ノルード? 私、別にアデルバ様のことなんてぇ……」
「ルルメリーナ様は、アデルバ様との婚約を喜ばれているのですよね?」
「あー、うん。そうですよぉ。ネセリアの言う通りです」

 ノルードとネセリアは、ルルメリーナに対して必死に目配せしていた。
 基本的に正直者でしかない彼女ではあるが、一応今回どうして自分がここに来たのかは、理解している。
 そのことを二人は、必死に思い出させた。ウェディバー伯爵家に取り入ること、それが重要であることを思い出したルルメリーナは、流石に発言を抑えたようだ。

「ふふ、嬉しいものだな。君にそんな風に思ってもらえているなんて……やはり僕の運命の相手とは、君であるということか。あの目つきの悪いリフェリナなどではなく」
「うーん。アデルバ様は見る目がないですねぇ」
「うん?」
「え? あー、なんでもないです」

 しかしルルメリーナは、すぐにその事実を忘れていた。
 故にノルードとネセリアは、再び必死に目配せをする。それでなんとか、誤魔化す気にはなってくれたようだ。
 そんな彼女に、二人はゆっくりとため息をついた。やはり、この任務には無理があるのではないか。二人の頭の中には、そんな考えが過ったのだった。
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