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7.信頼できる人

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「何があったのか、私は聞かないでおきましょうか。オルビリアスさんの憂いが、貴族の家同士の問題にあるというなら、私なんかが口出しするのはおこがましいことですからね」

 保健室の先生は、そう言って私とドラグルド様と距離を取っていた。
 外傷とか病気などなら、彼女も判断はできるだろう。しかし今回は、趣が異なる。先生は自分の領分ではないと判断したようだ。
 そう考えると、魔法学園の保健室の先生とは大変なものである。そんなことを思いながらも、私はドラグルド様に視線を向けていた。

「……俺に話せることなら、話してくれればいい。もちろん俺は、アノテラ嬢の力になるつもりだ」
「ドラグルド様……」
「これでもそれなりに影響力があるからな。何かしらの手助けはできるだろう。言っておくが、それはバルザス公爵家としてのことではない。俺個人が、クラスメイトのために何かをしたいというだけだからな」

 ドラグルド様は、私に対してとても親身になってくれていた。
 それは恐らく、彼がお人好しであるからなのだろう。それはなんとなく理解できる。
 ただ、彼の言葉に甘えていいかは微妙な所だ。これは私の問題であり、そこに家族以外の誰かを巻き込むのは気が引ける。

「それが納得できないというなら、公的な話をするとしよう」
「……え?」
「バルザス公爵は、現在の王の弟の家系だ。つまり俺は、この国を統べる一族の一員であるといえる。その俺にとって、調和とは大切なことだ。平たく言ってしまえば、問題を解決するのは俺の使命だといえる。貴族同士の諍いを仲裁するのも、その一部であるといえるだろう」

 私が悩んでいると、ドラグルド様は別の観点から話すように促してきた。
 その言葉がどこまで本当であるかはわからない。しかし彼の言葉の節々からは、とにかく話せという圧が伝わってくる。

 ドラグルド様は、案外強引な人なのかもしれない。それはきっと、彼の善性がそうさせているのだろう。
 それが理解できたため、私は肩の力を抜く。この人は頼っていい人なのだ。心からそう思えたため、迷いはなくなった。

「平たく言えば、婚約者と親友に裏切られたということになるのでしょうか」
「ほう……」
「二人の浮気現場を見て、私は腰を抜かしたのです。それを二人に見つかってしまって……事情を知ったのは、今日なんです」
「そういうことだったのか……」

 私の言葉に、ドラグルド様は目を瞑った。
 ここに来るまでのことを思い出しているのかもしれない。数秒彼は、そうしていた。
 目を開いた時、ドラグルド様の顔は幾分か真剣なものになっていた。それはラフェリアとルビウス様に対して、怒ってくれているからなのかもしれない。
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