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4.目を見て
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「……さて、アノテラ嬢、無事だろうか?」
「あ、えっと……」
ラフェリアとルビウス様が去っていくのを見届けた後、ドラグルド様は私の方を向いた。
彼の質問に、私は曖昧な言葉しか返せない。 親友と婚約者を一気に失った。その事実から、私はまだまったく立ち直れていないのだ。
「……少し失礼する」
「え?」
そこでドラグルド様は、私の頬に手を添えた。
彼はその状態で、私の前髪を払う。そしてしっかりと、私の目を見てきた。
「綺麗な目をしているな」
「あ、ありがとうございます?」
「しかしながら、その綺麗な目を隠すのはもったいない。前髪はもう少し短くするべきだな」
「そ、そうでしょうか……?」
ドラグルド様の突然の品評に、私は少し戸惑っていた。
目が綺麗だと言われることは嬉しいのだが、何故急にそんなことを言い出したのかが、まったく持ってわからない。
大体、話すのが初めての相手の顔に触れ合うのは、少し気安過ぎるのではないだろうか。
「しかし安心した。反応があまりにも薄かったから、意識が朦朧としているのではないかと思ったが、そういう訳ではないようだな」
「え? あっ……はい。それは、大丈夫です」
私は、すぐにドラグルド様の意図を理解した。
要するに彼は、私が受け答えできるかを確かめていたのだ。状況が状況だったので、それはとても私を気遣った措置だといえる。
そんな気遣いにまったく気付けなかった自分を、私は恥じた。よく考えてみれば、助けてもらったのにお礼も言っていない。それに気付いて、私の体は少し力を取り戻してくれた。
「あの、助けていただきありがとうございます」
「何があったのか、聞いてもいいだろうか? いや、その前に動けるか?」
「あ、その、腰が抜けてしまって」
「無理もない。あの二人に詰められたのだからな。怖かっただろう。よく頑張った」
ドラグルド様は、私の肩をゆっくりと叩いてきた。
その優しい賞賛に、私はどこまで安心する。
あの状況で助けてくれた訳だし、ドラグルド様は本当に良い人と考えていいだろう。つい先程裏切られたばかりだが、私は目の前にいる人を信じられた。
「保健室に行くべきか。アノテラ嬢、また少し失礼する」
「え? あ、あの……」
私が安堵のため息をついていると、体が宙に浮き上がった。
それがドラグルド様にお姫様抱っこされたと気付いたのは、彼の顔を割と間近で見てからのことだった。
突然のことに、私はひどく動揺している。ただ幸いにも、体はそこまで動かなかった。ここで慌てて二人で倒れた大変なので、それは幸いだったといえるだろう。
「あ、えっと……」
ラフェリアとルビウス様が去っていくのを見届けた後、ドラグルド様は私の方を向いた。
彼の質問に、私は曖昧な言葉しか返せない。 親友と婚約者を一気に失った。その事実から、私はまだまったく立ち直れていないのだ。
「……少し失礼する」
「え?」
そこでドラグルド様は、私の頬に手を添えた。
彼はその状態で、私の前髪を払う。そしてしっかりと、私の目を見てきた。
「綺麗な目をしているな」
「あ、ありがとうございます?」
「しかしながら、その綺麗な目を隠すのはもったいない。前髪はもう少し短くするべきだな」
「そ、そうでしょうか……?」
ドラグルド様の突然の品評に、私は少し戸惑っていた。
目が綺麗だと言われることは嬉しいのだが、何故急にそんなことを言い出したのかが、まったく持ってわからない。
大体、話すのが初めての相手の顔に触れ合うのは、少し気安過ぎるのではないだろうか。
「しかし安心した。反応があまりにも薄かったから、意識が朦朧としているのではないかと思ったが、そういう訳ではないようだな」
「え? あっ……はい。それは、大丈夫です」
私は、すぐにドラグルド様の意図を理解した。
要するに彼は、私が受け答えできるかを確かめていたのだ。状況が状況だったので、それはとても私を気遣った措置だといえる。
そんな気遣いにまったく気付けなかった自分を、私は恥じた。よく考えてみれば、助けてもらったのにお礼も言っていない。それに気付いて、私の体は少し力を取り戻してくれた。
「あの、助けていただきありがとうございます」
「何があったのか、聞いてもいいだろうか? いや、その前に動けるか?」
「あ、その、腰が抜けてしまって」
「無理もない。あの二人に詰められたのだからな。怖かっただろう。よく頑張った」
ドラグルド様は、私の肩をゆっくりと叩いてきた。
その優しい賞賛に、私はどこまで安心する。
あの状況で助けてくれた訳だし、ドラグルド様は本当に良い人と考えていいだろう。つい先程裏切られたばかりだが、私は目の前にいる人を信じられた。
「保健室に行くべきか。アノテラ嬢、また少し失礼する」
「え? あ、あの……」
私が安堵のため息をついていると、体が宙に浮き上がった。
それがドラグルド様にお姫様抱っこされたと気付いたのは、彼の顔を割と間近で見てからのことだった。
突然のことに、私はひどく動揺している。ただ幸いにも、体はそこまで動かなかった。ここで慌てて二人で倒れた大変なので、それは幸いだったといえるだろう。
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