上 下
4 / 16

4.目を見て

しおりを挟む
「……さて、アノテラ嬢、無事だろうか?」
「あ、えっと……」

 ラフェリアとルビウス様が去っていくのを見届けた後、ドラグルド様は私の方を向いた。
 彼の質問に、私は曖昧な言葉しか返せない。 親友と婚約者を一気に失った。その事実から、私はまだまったく立ち直れていないのだ。

「……少し失礼する」
「え?」

 そこでドラグルド様は、私の頬に手を添えた。
 彼はその状態で、私の前髪を払う。そしてしっかりと、私の目を見てきた。

「綺麗な目をしているな」
「あ、ありがとうございます?」
「しかしながら、その綺麗な目を隠すのはもったいない。前髪はもう少し短くするべきだな」
「そ、そうでしょうか……?」

 ドラグルド様の突然の品評に、私は少し戸惑っていた。
 目が綺麗だと言われることは嬉しいのだが、何故急にそんなことを言い出したのかが、まったく持ってわからない。
 大体、話すのが初めての相手の顔に触れ合うのは、少し気安過ぎるのではないだろうか。

「しかし安心した。反応があまりにも薄かったから、意識が朦朧としているのではないかと思ったが、そういう訳ではないようだな」
「え? あっ……はい。それは、大丈夫です」

 私は、すぐにドラグルド様の意図を理解した。
 要するに彼は、私が受け答えできるかを確かめていたのだ。状況が状況だったので、それはとても私を気遣った措置だといえる。
 そんな気遣いにまったく気付けなかった自分を、私は恥じた。よく考えてみれば、助けてもらったのにお礼も言っていない。それに気付いて、私の体は少し力を取り戻してくれた。

「あの、助けていただきありがとうございます」
「何があったのか、聞いてもいいだろうか? いや、その前に動けるか?」
「あ、その、腰が抜けてしまって」
「無理もない。あの二人に詰められたのだからな。怖かっただろう。よく頑張った」

 ドラグルド様は、私の肩をゆっくりと叩いてきた。
 その優しい賞賛に、私はどこまで安心する。
 あの状況で助けてくれた訳だし、ドラグルド様は本当に良い人と考えていいだろう。つい先程裏切られたばかりだが、私は目の前にいる人を信じられた。

「保健室に行くべきか。アノテラ嬢、また少し失礼する」
「え? あ、あの……」

 私が安堵のため息をついていると、体が宙に浮き上がった。
 それがドラグルド様にお姫様抱っこされたと気付いたのは、彼の顔を割と間近で見てからのことだった。
 突然のことに、私はひどく動揺している。ただ幸いにも、体はそこまで動かなかった。ここで慌てて二人で倒れた大変なので、それは幸いだったといえるだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」 本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?

婚約して三日で白紙撤回されました。

Mayoi
恋愛
貴族家の子女は親が決めた相手と婚約するのが当然だった。 それが貴族社会の風習なのだから。 そして望まない婚約から三日目。 先方から婚約を白紙撤回すると連絡があったのだ。

【完結】こんな所で言う事!?まぁいいですけどね。私はあなたに気持ちはありませんもの。

まりぃべる
恋愛
私はアイリーン=トゥブァルクと申します。お父様は辺境伯爵を賜っておりますわ。 私には、14歳の時に決められた、婚約者がおりますの。 お相手は、ガブリエル=ドミニク伯爵令息。彼も同じ歳ですわ。 けれど、彼に言われましたの。 「泥臭いお前とはこれ以上一緒に居たくない。婚約破棄だ!俺は、伯爵令息だぞ!ソニア男爵令嬢と結婚する!」 そうですか。男に二言はありませんね? 読んでいただけたら嬉しいです。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

処理中です...