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2.二人に見つかって
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「……そこにいるのは誰だ?」
「ルビウス様」
「ああ、任せておけ」
崩れ落ちた私の元に、ルビウス様とラフェリアは焦ったような顔で近づいてきた。
それは当然だ。今二人は、人に見られてはならないことをしている。誰かに見られたとなれば、とても焦ることだろう。
しかし私の元までやって来た二人は、その表情を変えた。冷たい視線で、私のことを見てきたのだ。
「……アノテラ」
「アノテラ……どうしてあなたがここに?」
「その、ラフェリアを探していて」
「……まったく、あなたはいつも間が悪い」
私の言葉に、ラフェリアはその表情を不快そうに歪めていた。
そのような表情を、私は見たことがない。彼女とは今まで喧嘩したこともなかったし、負の一面なんて知る由もなかった。
もっとも、その表情は仮に喧嘩をしていても見ることはなかっただろう。相手を見下し侮蔑する表情は、喧嘩が成立する仲ではまずしない顔だ。
「まあ、ばれてしまったなら仕方ないか。アノテラ、僕はラフェリアのことを愛しているんだ。君との婚約は、正直不愉快でね」
「ルビウス様、それは……」
「親同士が勝手に決めた婚約だ。君に愛なんてものがある訳がない。ことを荒立てたくなかったら、今までは丁重に扱ってやっていたが、もうその必要もないな」
「わ、私は……」
「はっきりと言っておこう。君のように小さくて陰気な女と婚約したい奴なんていない。まあ、物好きはいるのかもしれないが、少なくとも僕は一般的な感性をしている。ラフェリアのように美しい女性と結ばれたいのさ」
ルビウス様は、私のことを侮辱してきた。
その言葉の全てが、紳士のものではない。それは今までの彼から考えると、信じられないような発言だ。
私は、とても気分が悪くなっていた。自分が美しい女性ではないことは自覚している。しかし、それを面と向かって言われることがこれ程までに辛いとは、思っていなかった。
「言っておくけど、同性でもあなたなんて嫌だからね」
「……え?」
「私があなたと一緒にいたのは、あなたが引き立て役に丁度良かったからよ。そうでなければ、あなたとなんか一緒にいないわ。見れば見る程、薄汚い女……嫌になるわ」
ラフェリアも、私に対してはルビウス様と同じような印象を抱いていたようである。
そのことに私の気分はさらに落ち込んだ。長年ずっと親友だと思っていた相手が、本当は私のことが嫌いだったなんて、信じたくない事実である。
「言っておくけど、このことを誰かに言ったりするんじゃないわよ。そんなことをしたら、何するかわからないわよ? まあそもそも、私が守ってあげなければ、あなたなんて虐めの良い標的だけど」
「お前との婚約なんて、いつか絶対に解消してやる。それまでは忌々しいことこの上ないが、今の関係で我慢してやるよ」
二人は口々に、刺々しい言葉をかけてきた。しかし私は、それに反応することすらできない。
今まで信じてきたものが全て砕け散って、私の心は折れかけていた。涙すら出ない程に、私の心は傷ついていたのだ。
「……気に入らないな」
「……何?」
そんな私の耳に入ってきたのは、透き通るような声だった。
目の前の二人とは違う声を持つ人物は、私達の間に颯爽と割って入ってきた。
その人物のことを、私は知っている。彼は、同じクラスのドラグルド・バルザス公爵令息。この国でも優秀の貴族だ。
「ルビウス様」
「ああ、任せておけ」
崩れ落ちた私の元に、ルビウス様とラフェリアは焦ったような顔で近づいてきた。
それは当然だ。今二人は、人に見られてはならないことをしている。誰かに見られたとなれば、とても焦ることだろう。
しかし私の元までやって来た二人は、その表情を変えた。冷たい視線で、私のことを見てきたのだ。
「……アノテラ」
「アノテラ……どうしてあなたがここに?」
「その、ラフェリアを探していて」
「……まったく、あなたはいつも間が悪い」
私の言葉に、ラフェリアはその表情を不快そうに歪めていた。
そのような表情を、私は見たことがない。彼女とは今まで喧嘩したこともなかったし、負の一面なんて知る由もなかった。
もっとも、その表情は仮に喧嘩をしていても見ることはなかっただろう。相手を見下し侮蔑する表情は、喧嘩が成立する仲ではまずしない顔だ。
「まあ、ばれてしまったなら仕方ないか。アノテラ、僕はラフェリアのことを愛しているんだ。君との婚約は、正直不愉快でね」
「ルビウス様、それは……」
「親同士が勝手に決めた婚約だ。君に愛なんてものがある訳がない。ことを荒立てたくなかったら、今までは丁重に扱ってやっていたが、もうその必要もないな」
「わ、私は……」
「はっきりと言っておこう。君のように小さくて陰気な女と婚約したい奴なんていない。まあ、物好きはいるのかもしれないが、少なくとも僕は一般的な感性をしている。ラフェリアのように美しい女性と結ばれたいのさ」
ルビウス様は、私のことを侮辱してきた。
その言葉の全てが、紳士のものではない。それは今までの彼から考えると、信じられないような発言だ。
私は、とても気分が悪くなっていた。自分が美しい女性ではないことは自覚している。しかし、それを面と向かって言われることがこれ程までに辛いとは、思っていなかった。
「言っておくけど、同性でもあなたなんて嫌だからね」
「……え?」
「私があなたと一緒にいたのは、あなたが引き立て役に丁度良かったからよ。そうでなければ、あなたとなんか一緒にいないわ。見れば見る程、薄汚い女……嫌になるわ」
ラフェリアも、私に対してはルビウス様と同じような印象を抱いていたようである。
そのことに私の気分はさらに落ち込んだ。長年ずっと親友だと思っていた相手が、本当は私のことが嫌いだったなんて、信じたくない事実である。
「言っておくけど、このことを誰かに言ったりするんじゃないわよ。そんなことをしたら、何するかわからないわよ? まあそもそも、私が守ってあげなければ、あなたなんて虐めの良い標的だけど」
「お前との婚約なんて、いつか絶対に解消してやる。それまでは忌々しいことこの上ないが、今の関係で我慢してやるよ」
二人は口々に、刺々しい言葉をかけてきた。しかし私は、それに反応することすらできない。
今まで信じてきたものが全て砕け散って、私の心は折れかけていた。涙すら出ない程に、私の心は傷ついていたのだ。
「……気に入らないな」
「……何?」
そんな私の耳に入ってきたのは、透き通るような声だった。
目の前の二人とは違う声を持つ人物は、私達の間に颯爽と割って入ってきた。
その人物のことを、私は知っている。彼は、同じクラスのドラグルド・バルザス公爵令息。この国でも優秀の貴族だ。
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