失踪した婚約者の連れ子と隠し子を溺愛しています。

木山楽斗

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12.ぎこちない態度

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「……ところで、そちらの方は?」
「おや、まだ紹介していませんでしたね。こちらはエリシアさん、父上の婚約者です」
「婚約者……」

 話が一段落してから、ロナティアは私の方に目を向けてきた。
 彼女は、私に関しても警戒している。ただそれは、アムドラさんへの警戒よりも少しだけ緩いような気がする。
 やはり、同性であるからだろうか。警戒の度合いが違うのかもしれない。

「えっと、こんにちは。ロナティアさん、私はエリシアです。こちらの家には、今日来たばかりですが……」
「そうなのですか?」
「ええ、そういう意味ではあなたと同じですね」

 とりあえず私は、極めて明るくロナティアに話しかけた。
 私は特に彼女としがらみがあるという訳ではない。できれば、良好な関係を築きたいものだ。

「……私とあなたは同じ立場ではありません。ヴォルダー伯爵は、失踪されたのでしょう? それなら、あなたとの婚約は既に破綻しているのではありませんか?」
「ああ……」

 私の呼びかけに、ロナティアはとても固い返答を返してきた。
 ただ、言われてみればその通りではある。私は今、非常に曖昧な状態だ。

「その辺りのことは、まだアムドラさんと話し合っていませんでしたね……」
「ええ、そうですね。しかし、父上がいつ帰って来るかもわかりません。エリシアさんさえよろしかったら、ここに留まってもらっても構いませんよ」
「そうですか……それなら、お言葉に甘えさせていただきます」

 私は、アムドラさんの言葉にゆっくりと頷いた。
 ヴォルダー伯爵との婚約は面倒な状態になっている。ただ私はすぐにここを去るべきではないだろう。少なくともこの事件が一段落するまでは、ここにいるべきだ。
 伯爵がどうなるかわかってから、私の身の振りは決めるとしよう。ラガーテ男爵家も、恐らくそう判断するはずだ。

「そういうことですから、私もしばらくロナティアさんと共同生活を送ることになりました。よろしくお願いしますね?」
「……ええ、こちらこそよろしくお願いします」

 ロナティアの返答は、少しぎこちないものだった。
 どうやらまだ、心は開いてくれていないようだ。
 しかし、それはこれから変えていけばいいことである。今はそこまで気にするべきではないだろう。

「さてと、とりあえずロナティアさんの部屋を準備しなければなりませんね。それから、僕は色々とやることがありますので……エリシアさん、ロナティアさんのことをしばらく頼めますか?」
「え? ええ、私でよければ」
「何かあったら、使用人を呼びつけてください。ロナティアさんの方も、それでいいですか?」
「はい、私は構いませんが……」

 そこでアムドラさんは、ゆっくりと立ち上がった。
 伯爵の失踪なども含めて、彼は色々とするべきことがあるのだろう。少し焦っている様子だ。
 とりあえず私は、その指示に従うことにした。ここに来たばかりの私にできることはそう多くなさそうだ。ここは邪魔せずロナティアと大人しくしている方がいいだろう。
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